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31.魔獣群討伐作戦…1

その日、事件が大きく動くことはなかった。

屋敷に戻るとイワミが呼んだらしい研究区間の者が数名おり、


「この魔導人形…でいいんでしょうか。

 こいつの魔力の形跡から使用者そのものとまではいかずとも

 どれくらいの力量か調べることもできたのですが…」

「ダメなんですか?」

「はい。この氷がどうも魔力を掻き消す性質があるようでして。

 形跡を辿るのは勿論魔法で熱を出して撤去するのも難しそうです」


ということで、大変な迷惑をかけてしまった。

自衛のため仕方なかったとはいえもうちょっとやり様があったかもしれない。


『申し訳ありません、シュン様。わたしの選択ミスです』

「最終的に選んで投げたのは俺だろ?

 だったら俺が悪いよ」

『申し訳ありません…』


前もこういうことあった気がするな。

メイは以前俺に、もっと強気になっていいと言っていたが

俺もエルにもっと偉そうになってほしい。


そういう意味では俺とエルは似ているのかもしれない。


最終的には大きなドリルみたいな道具で粉々にした後、

巨人の破片は研究区間に持って帰られ残った氷はそのまま流された。

エルに頼んだ通り、浴室には傷はついていない。


とりあえず、風呂に入れないという緊急事態はこれで解決した。



翌日、俺は魔獣討伐の仕事に呼ばれた。

集合場所は近く、遅れはわけにもいかないので早い目に出たが誰もいない。

俺はほかの皆が来るまで待機することにした。

そして何故かメイも。


「なんでお前いるの?」

「元々わたしここの所属だったんですよ」


なるほど、メイドの技術として戦闘ができるのではなく

初めから戦闘ができてメイドになったのか。


なんでメイドになったんだ…


「いやまぁムーンラビットですので、

 誰かに仕えるのが本望みたいなものなんですが

 当時のわたしはちょーっとだけ粗暴でして」

「メイドになってその辺りの礼儀を学ぼうと?」

「はい、そんな感じですね。

 流石にこのままじゃ一生狩人かなって危機感はありましたし」


ということはこの軽快メイドなメイは後付けで、

戦闘中のジェノサイドなメイが本来のメイなのだろうか。


「窮屈だったりしないのか?」

「まさか。これもわたしの立派な側面ですから。

 ご主人様は優しいですね。大好きですよ」


隙あらば好意を伝えてくるのやめよう?

ふと視線を落とすといつものものよりシンプルで

身軽な印象を持つメイド服が映る。

…そして先日の不幸な事故で見てしまったメイの四肢がそれに被る。


「…っ!」

「? どうかなさいましたか?」


顔を逸らす俺をメイが不思議そうに見つめる。

ちょっと恥ずかしくて彼女を正面から見れない…

思春期真っ最中な男子高校生にアレはすこし刺激が強すぎたからね仕方ないね。


「おーい、シュン!」


そこに、聞き覚えのある声が聞こえる。

この声は…


「あっ、ロバートさん!」


ケンタウロスの男性、ロバートさんのものだった。

その後ろには虎や猪のような屈強そうな人たちがついてきている。


彼には採集グループに同行した際にお世話になり、

俺が魔獣を倒した事を広めてくれて人間への認識を変える

切っ掛けを作ってくれた人だ。


…まぁ、多少噂の形が変わって俺が怪力料理人になったりはしたが。


「ロバートさんも狩猟グループについていくんですか?」

「あぁ。といっても前回と同じような荷物運びだがね。

 みんな! 彼が話していた人間だよ!」


ロバートさんが声をかけると他の人たちが集まる。

杖やローブで魔法使いめいている人もいるにはいるが、

大体は筋骨隆々なおじさんお兄さん達だ。


「お前が噂の人間か! 期待しとるで!」

「今回は大規模な作戦だからな、任せたぞ!」

「人間の力…見させてもらおう!」


様々な声に包まれて俺は「が、頑張ります」としか答えられない。

しかし人間という事で嫌な顔はされていない。

イワミやロバートさんのお蔭だろうか。彼女たちには感謝してもしきれない。


「お、今日はもしかしてメイも参加するのか!?」

「えぇ、まぁ。はい」


背の小さい、豚っぽい耳と鼻の男がメイを見て驚く。

彼女は俺がロバートさんと話している間に少しだけ離れていた。

会話を邪魔しないよう気遣っていたのだろう。


どうもメイは有名人のようで、周りの人たちもメイの方を向く。


「メイが集団の作戦に参加するなんて珍しいな。

 イワミさんから頼まれたのか? 今回のはそこまで困難って訳でも…

 ああっ!!??」


俺を激励してくれていた猪のお兄さんが発言中に突然驚く。

その驚きようはまるで今まで抱えていた矛盾を解決する一つの誤解に

突然気づいたかのような、とにかく重みと衝撃を感じるものだった。


「め、メイが…主を決めているだと!!」

「「「な、なにィィィィィィ!!!!」」」


その発言に他の人たちも揃えたように仰天する。

驚天動地とはこの事だろう。


「一体誰なんだ!? あのイワミさんですら断っていたのに…!」

「いや、だってイワミ様は立派な方ですが立派すぎて

 わたしいなくても何とかしそうじゃないですか…」

「それは確かにそうだな」


メイがイワミを主にしなかった理由がさり気なく明かされる。

確かにあの人なら自ら人材を呼び寄せて事を成せるだろう。


いや、ちょっと待てよ。

その言い方だとまるで俺はメイの助けがないと何もできない奴にならないか?

うん、間違ってはいない気がするな。


「けど驚いたぞ。みんな一生一人なんだろうなって思ってたしな」

「わたしもそうですよ。我ながらとてつもなくハードル高いので、

 心から仕えたいと感じる人なんていないと思ってましたし…」


あっ、メイがこっち見てる。

ヤバい気がする。この流れは絶対ヤバい。本能で察している。

逃げたい。しかし筋肉の壁に拒まれて逃げられない。

この時、俺は自らの貧弱さを呪った。


「けど、出会えたんです。わたしの全てを捧げられる人に…

 ね、ご主人様」


ありとあらゆる顔が俺を向く。

うん、こうなるよね。知ってた。


ほんの一瞬だけ間が空き


「すげぇな人間!」「一体どうやったんだ!」「おめでとう!」

「やるじゃねぇか!」「うらやましい!!」「よくメイを口説いたな!」

「男の中の男!」「メイを幸せにしてやれよ!」「がんばれよー!」


等々。さっき俺を包んだものとは比較にならない程の

歓声や激励とたまに嫉妬の大嵐に巻き込まれた。


俺はメイ、お前許さんからな…! と明るい笑顔の彼女をちょっとだけ呪いながら

その嵐の中流されていくのだった。

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