27.騒乱の後始末
「…これって、魔獣なのか?」
「いや、これは…。恐らくは魔導人形じゃな」
俺とメイは(流石に別々に)着替えた後、
イワミやレリィなど、屋敷にいる人をなるべく集めた。
皆は囲うように氷漬けにされた黒い巨人を観察している。
「魔導人形?」
「あぁ。書いて時の如く、魔法により動く人形じゃ。
安全に魔獣を倒せるとかで研究が盛んな分野じゃな」
イワミ曰く、こいつは誰かの魔法によって操られていたらしい。
確かに安全なところから一方的に攻撃できるのならば
魔獣を討伐する際の安全性も飛躍的に向上するだろう。
今回は俺が討伐されかけたが。
「実際は魔獣に致命傷を与える方法がなかったり、
魔獣が逃げ出した場合は追えなかったりと問題は山積みのようじゃが…
まさかこんな使い方をするとはのう」
とはいえ、そう上手くはいかないようだ。
魔獣と遭遇した際のロバートさんの狼狽を思い出す。
本来ならば魔獣の討伐は数名でチームワークを組んで行うものなのだろう。
…二人で巨大魚を吹っ飛ばす誰かや
一人で大量の巨大蟻をバラバラにする誰かが異常なだけで。
「誰が送り込んできたかっていうのはわかるか?」
「調べたいのは山々じゃが…これじゃあのう」
コンコン、と氷漬けの巨人を叩く。
それは微動だにせず、既にあらゆる動力を失っているように見える。
「エル、これ溶かしたらどうなる?」
『中の…魔導人形と呼ばれているものですが。
これは物理的には組織間の繋がりがすでになくなっておりますので、
まず間違いなく粉砕されます』
無傷で調査、とはいかないらしい。
しかし壊してしまうと貴重な手がかりを損ねてしまうかもしれないので、
これは維持できる限りは一旦このままにすることとなった。
イズモ、レリィ。風呂はお預けだ…。すまん。
少しすると、屋敷の外を見回っていたアサマが戻ってくる。
この大きな屋敷を一周した上で水道設備を確認してきたというのに、
彼女は息1つ乱れていない。とんでもない体力だ。
「報告です。西側裏手の野外設備に何者かが細工をした形跡がありました。
現在目撃情報を集めておりますが、時間が時間だけに難しいかと」
「報告有難う、アサマ。引き続き調査をお願いします」
「は、はいっ! 承知しました!」
メイの指示を受けるアサマはどこか輝いている。
憧れの先輩とその背中を追う部下といったところだろうか。
その先輩がいきなり態度変わってどこの馬の骨かもわからん
流れ者を一生の主とか言い始めたらそら混乱するはな。と、
巨大蟻とついでのハーレティクスを倒した後のアサマの反応に少し納得する。
「ねぇシュンくん。こいつどんな感じだった?」
「どんな感じって…。そこのお湯出してるところからずるずるでてきて、
それからはエルも持ってない全裸の俺を追いかけてきたな」
「全裸のシュンくん…ひゃー!」
レリィは何かを想像して顔が真っ赤になる。
そんな火照った顔を翼で隠す動作もまた可愛らしい。
しかし俺のこの世界では平均以下な体なんか想像しても面白くないと思うぞ。
「水道に直接送りこんで追尾して来たのじゃろうか…
最悪の場合手洗いから這い出てきたかもしれんな」
「それは流石に勘弁してほしい…」
風呂で遭遇した結果色々あったが手洗い中に遭遇は色々な意味で最悪すぎる。
それを処理しないといけない人たちがあまりに可哀想だ。
「なんか他になかったか、なんでもいいぞ」
「何でもって言ってもな…」
この巨人と遭遇してからを思い出す。
這い出た巨人は立ち上がり、俺に襲い掛かりながら…
「近寄るな…、あの女に、近寄るな? まさか……」
頭の中で今日の出来事が一本に繋がる。
この異世界で悪意というものに今まで触れてこなかっただけに
信じがたい、いや信じたくない推測だが、筋は通る。
そこに遅れてイワミがやってくる。
ここまで急いで来たのか、その額には汗が滲む。
彼女は第一に俺の前まで来て、
「我が屋敷で客人に危害が加えられるとは、なんという失態。
シュンには迷惑をかけてばかりですね…。重ねてお詫びします」
「い、いえイワミさんが謝る事では…」
流石に今回悪いのはイワミさんではなくこれを送り付けた犯人だ。
むしろイワミさんは俺と同じ被害者の立場にあると言えるだろう。
「…しかし。この形式の魔導人形は見た事がありませんね。
研究グループの発表している製品は全て目を通しているのですが…」
「す、全て…?」
「はい。最新の技術や将来性を見定めるのも仕事のうちですから」
さりげなくとんでもない事を言うイワミ。
研究グループというのがどれほどのものかわからないが、
話を聞く限り様々な魔法や道具を発明しているようだ。
それを全て把握するとなるととてつもない量になるのではないか。
「しかし、我が屋敷に直接攻撃を仕掛けたのは間違いありません。
ここまでのものを作る技術は研究区間にしかありませんので、
あまり望ましい事ではありませんが研究区間の代表に話を通します」
直接攻撃。物騒な単語に少し慄く俺。
まるで戦争でも始まってしまうかのようだ。
…俺のせいで採集区間と研究区間の間で抗争でも起きたらどうしよう、
そういう喧嘩とか対立とかほんと嫌なんだけど。
「では早速研究区間に使者を送ります」
「はい。できるだけ詳細に…いえ、シュンの事はただの客人としておいて下さい。
フロレンツィーア博士の事ですからもう聞きつけているとは思いますが」
一応人間は異世界であまりよくない立場にあるからね。
しかしまた新しい名前がでてきた。フロレン…なんだって?
「今のフロレンなんとかって、誰?」
「フロレンツィーア・ゴト・ラータ。今の研究区間代表じゃ」
フロレンツィーア。長い。レリィの本名もそこそこ長いがそれ以上に長い。
もうフロレンでいいか。
「魔法の研究だけは優秀なんじゃが…まぁ、結構な変人でな。
新たな発明のためなら何でもするような奴じゃ。
シュンもあやつに解剖されんように気を付けるのじゃぞ」
「か、解剖って…」
確かに人間なんて珍しい生き物、格好の研究材料だろう。
まだ見ぬ二人目の区間代表の登場に、俺は少しばかり緊張するのだった。




