25.普通の食卓…2
夕食を食べ終わり、メイたち使用人が食器を片付ける。
それを少しだけ手伝った後、三人は再び席に着く。
さてどこから話したものかのとイズモは悩む。
「この町には大きくわけて四つの地区があるのじゃ」
「四つの地区?」
町を四つに分けるというのは少しイメージがわかない。
ただ、かつて俺がいた国は首都の更に中枢を23の区で分けていたらしい。
それと似たようなものだろうか?
「うむ。特に盛んな仕事や役割によって名づけられておる。
わらわ達がいるここは採集地区じゃな。
他には狩猟、研究、製造の地区がそれぞれある」
狩猟と採集についてはなんとなくわかる。
魔獣を倒して持って帰る仕事と俺が手伝ったような果物と山菜を確保する仕事だ。
製造は多分、魔獣の死体や資材から物を作ったりするのだろう。
研究については何をしてるのか全くわからん。
確かライラの父が研究者で魔法を発明していたと話していたからその類だろうか。
とはいっても、と彼女は続ける。
「この近くでも狩猟のグループは集まるし、
日用品を作ったり建築を任される奴もおる。
あくまで他の地区に比べてそれが秀でている、というだけの事じゃ」
「そして、そういった分け方がされた背景には
バラバラだった町を取りまとめた四人の存在がある。
その一つが、わがリガ家のご先祖様なのじゃ」
元々町はバラバラだった。しかしそれでは流通や管理に不都合が生じる。
そこで大きなグループにまとまる事で、町を四分割する形になったようだ。
俺たちの世界でも戦国時代とかそれ以前は
そうやって分かれていったのかもしれない。
「で、わらわの曾祖母の代に水道を整備し祖母の頃にはその管理を任された。
更に母上はその後狩猟グループを強化し、
リガ家の名を不動のものとさせたのじゃ」
先祖の事を話すイズモは自慢げだ。
彼女にとってもリガ家というのは誇りであり、
それを背負っていくという自覚もあるのだろう。
ただの高校生として、漠然と公職につけばいいかなどと
考えていた俺とはその責任感も未来図も段違いにしっかりしている。
…まぁ俺はもうそれすらないんだけどな。はっはっは。
ほんとこれからどうしようかね?
「ぼくもイワミさんが持ってる採集グループに入ってるんだよ。
まだ子供だからあんまり遠くまではいけないけど…」
そういえばレリィの親は採集グループの古株っていっていたな。
彼女もそんな親の跡を継ぐつもりらしい。
この子たちほんと将来像もしっかりしていて凄い。
一方の俺は将来どころか目の前真っ暗で何も見えないよ。
そんな事を考えていると、メイとは別の使用人が扉を上げる。
「イズモ様。イワミ様より浴槽の修理が完了したので使いなさいとの連絡が」
「おう、遂に治ったか」
浴槽? 風呂? 風呂なのか?
この屋敷には風呂があるのか??
日常生活の一部に風呂があった民族としての血が奮い立つ。
「魔法装置に頼り過ぎてどこで壊れてるかわからなかったからのう」
「ここのお風呂はおっきい分複雑で管理が大変そうだよね」
魔法装置…、魔法を出し続ける機械だろうか。
異世界は科学的には俺のいた世界より遅れていると言わざるをえないが、
魔法の恩恵はそれを補うには十分なように感じる。
それより風呂だ風呂。
「イズモ…。ここには風呂があるのか」
「ん? あぁシュンには言ってなかったのう」
俺の微かな世界史の記憶には、同じく水道を整備していたローマにも
大衆向けの銭湯みたいな施設があったらしい。
ならばこの異世界にも風呂があってもおかしくはないが
まさかそれがこの屋敷の中にあるとは…
リガ家、偉大。リガ家、凄い。
「そうじゃな。先にシュンが入ってくるといい。
ないとは思うがわらわ達が先に入ってしまうと、
こう…とらぶる? みたいなのが起きる可能性もあるしな」
「それは俺が間違えて一緒に入っちゃうとかいうアレか」
「ぼくはそれでもいいけど…まだ自信ないから…」
間違えて女の子が入っている浴室に入ってしまうのは
相当ありきたりな展開だが、聡明な俺とイズモはそれを阻止する。
悪いがサービスシーンはキャンセルだ。
「流石に大丈夫だとは思うが風呂での作法は
確か壁に打ち付けてあったはずじゃ。
場所はヴィエナに案内させよう。頼んだぞ」
「畏まりました」
ヴィエナと呼ばれたメイドは猫耳と尻尾があった。
俺は彼女の後をついていく。
屋敷の綺麗な廊下の中、ヴィエナは先を行きながらこちらに話しかける。
「ハウスキーパー…メイさんの主となった
人間というのはあなたで間違いありませんね」
「なったというか、させられたというか…」
一応は肯定するも、未だに自覚はない。
「メイさんはこの屋敷で最も優秀な使用人であると同時に、
町全体でも屈指の実力を持つ方です」
「メイも屋敷で一番強いって言ってたな」
「はい。本来ムーンラビットは戦闘には向いていないのですが、
メイさんはヴォーパルという希少な体質であり、
あらゆる種族の中でも最高級のステータスを持ちます」
ステータス。忘れかけてたゴミのような俺のそれを思い出す。
俺とは対照的にメイはとんでもなく優秀らしい。
「そんな彼女が何故あなたを主として仰いだのか私にはわかりませんが…
少なくとも、首輪をつけて以降の彼女はかつてよりずっと幸福に見えます」
俺と誓いをして以降のメイは確かに基本的にずっと笑顔だ。
以前のメイがどんな状態だったか忘れそうになるほどに。
「ですから。差し出がましい事は承知ですが…
どうか、メイさんを大切にしてあげてください」
「あぁ。命に代えてもメイを守ってみせるさ」
俺を慕って傍にいるという以上、メイを守るは俺の使命であり俺自身もそうしたい。
しかし、ヴィエナはその答えを聞いて静かに
「もしあなたが命を落とすような事があれば、メイさんはきっと…」
その先を、彼女は言わなかった。
なんとなく想像はつくが、それを考えたくはない俺がいた。
俺は、忠誠というものを甘く考えていたのかもしれない。




