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24.普通の食卓…1

その日の夕食はタコっぽい何かの生物の切れ端だった。

何となくメイに聞いてみたが、川を延々逆流してた魔獣だったので

もしかしたら海から来たかもしれないとの事だ。


海…海か。塩の話も早くしないとな。


食事の用意ができたところで、俺、イズモ、レリィは手を合わせて、


「「「いただきます」」」


異世界にもいただきますの文化はあったらしい。

元からあったものか、ナカタ・ユウキのような誰かが

残していったものなのかは今ではわからないが。


さて食べるかと食器に手を伸ばすが、何故かメイの距離が近い。

その綺麗な髪が俺のすぐ近くに垂れる。

彼女はそのままスプーン(多分骨でできている)でタコっぽい何かを掬い、


「ご主人様、あーん」

「ごめん流石に二人の前でそれは許して…頼む……」


いくらなんでもそれだけは勘弁して…

恥ずかしすぎてそこの窓から身投げまである。


俺の心からのお願いにより彼女はそのままスプーンを戻す。

イズモは信じられない物を見ているような目で、

レリィは何故か羨ましそうな目でそれぞれこっちを見ている。


「じゃあ、二人きりの時にしましょうか」

「二人きりなら全部許されるって訳でもないからね?」


今朝着替えを完全に任せっきりにしたためかメイがぐいぐい押してくる。

このままメイのやりたいようにやらせてしまうと

多分何もできないメイの寄生虫と化した俺が一匹完成してしまいそうな恐ろしさがある。

そして、そんんあ俺をメイは喜々として養ってくれそうなのが何よりも一番恐ろしい…


「あのメイが…いやぁ、シュン。お主なんというか…凄いの」


イズモは状況をある程度把握した上で、

それでも驚きを隠せないという反応だ。


「一体なにがあったの? ぼくも知りたいかなって」

「あぁそうだな。昨日の朝にイワミさんに呼び出されてな…」


メイに話させると俺がとんでもなく美化されてしまうので俺が話す。

喋るのはそんなに上手くないが昨日一日の出来事なんかそんなに長くはない。


巨大蟻の巣まで行って女王蟻倒したらハーレティクスでてきて

そのハーレティクスぶっ倒して怪我したメイ治して家帰っておわり。


ほら二行で済んだ。

…相当な大冒険だった気がするんだけどな。


一応、イワミとメイに俺が疑われていた事は伏せておく。

いらない心配はかけたくない。


「…で、ハーレティクスを倒してメイの左腕がくっついた後に

 その首輪をつけてメイはその…俺の召使い? になったというか」

「奴隷ですよ奴隷」


俺が濁したところをメイがドストレートで上書きする。

その奴隷って言葉はなんだかメイを

物のように扱っているようで好きじゃないんだがな。


「その首輪に鍵があったと思うのじゃが。それはどうしたのか」

「あぁ、それならメイが自分で爆破した」

「えっ」


こう、指でつまんでばにっしゅ。鍵は爆発四散。

あのシーンを軽く真似てみせるとイズモは何故かため息一つ。


「ムーンラビットの鍵というのはの。万が一主が道を違えた時…

 欲や狂気に溺れ悪の道に進んだ時、自らを開放するためにある」


首輪は忠誠の証。ならばその鍵は決別の証か。

伝統的な作法の話を聞いているようで、少し興味が出る。


「そしてその鍵を主に渡すというのは全幅の信頼の証じゃ。

 主はムーンラビットにそこまで慕われた偉大な人格者という事になる」

「じゃあ、鍵を自分で消すってのは…」


何か悪い意味が込められていたりしないだろうか。

お前わたしの気に食わない事したらこの鍵みたいにするぞ、みたいな。

イズモは困った顔で少し悩んでから。


「あんまりにも前例がないからのう…はっきりとわからんが…

 シュンが嫌がっても絶対にシュンに尽くしてやるからな、

 という執着にも似た固い意志を感じるのじゃ…」


そういえば誓いをした時も何の説明もなく最後までやった気がする。


「いや、ほんとどんだけシュンのこと好きなんじゃ…」


何故か俺まで恥ずかしくなってきた。

ふとメイの方を向くと彼女も恥ずかしそうに少し下を向いている。

メイの珍しい姿を視れたのでこれでよしとしよう。


「ま、まぁ。少し話を戻そうか。

 流石にこれ以上はちょっと恥ずかしいぞ」

「そうじゃな。レリィも若干対抗心を燃やしとるしの…」


それを聞いてレリィの方を見るが確かに少し膨れている。

視線の先は僅かに赤面したメイだ。


しかしレリィは既に天使なのでそのままでいて欲しい…


「それにしても、まさかこの短期間で

 ハーレティクスを二体も倒してしまうとはな」

「一体だけでもぼくらみんなが力を合わせても無理かもしれないのに…

 凄いよ、シュンくん!」


話題がハーレティクスの方に逸れて少しだけ安堵する。

…いや、しかし褒められ続けるのもそれはそれで気恥ずかしい。

ここはダメージを分散させよう。


「俺だけじゃ何もできなかったさ。メイと…エルのおかげだ」


俺はエルを取り出し机に置く。

そこには俺たちのように夕食を取る顔文字が浮かんでいた。

エルは一旦食事を中断させると、


『有難う御座います、シュン様。

 わたくしがシュン様の行動の手助けになっていれば幸いです』


手助けどころか殆ど全部お前のおかげさ。

お前がいなければ間違いなく俺はこの場所にいない。

俺はそう思いながら画面の中のエルをフリックして撫でた。


エルの顔文字は心地よさそうに目を細める。

そこにメイが再び近くに寄る。

その顔はさっきよりも紅潮しているように見えた。


「わたしもご主人様のお役に立っていれば…その……」


そういうとメイが腰を折りこちらに頭を向ける。

その動作の意味が分からず俺は一瞬戸惑ったが、

エルを見てすぐに理解する。

まぁ確かにエルだけするのは不公平だもんな。


「メイの御蔭で助かってるよ。本当にありがとう」


メイのうさ耳と髪を優しくなでる。

その髪触りはさらりとしていて、

少し力を入れるだけで崩れてしまいそうだ。


「ふふ、有難う御座います」


お気に召したらしい。

その声には優しさと嬉しさが込められていた。


…いかんな。完全にレリィとイズモを置いて行ってしまっている。

イズモは相変わらずメイの知らない姿に驚いているし

レリィもものほしそうな顔でこちらを見ている。


何か別の話題に持っていこう。


「あぁそうだ。さっきライラとの話で初めて知ったんだが…

 イワミさんとイズモってとんでもなく凄いんだな」

「そうじゃの。確かにシュンには言っておらんかったな」


イズモがいつもの調子を取り戻し、相変わらずのドヤ顔で続ける。


「いい機会じゃ。わらわたちリガ家の事について少し話すとしよう」


採集グループ大手と狩猟グループ次点と地下水道を指揮する大ボス。

ライラの話ではそんな感じだった。


今まで知らなかったイズモという少女の家系について、

少しだけ明らかになろうとしていた。

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