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21.翼の少女はやはり天使だった

「やっぱり俺は何も変じゃないと思うんだけどな」

「それはあなたが人間だからですよ…」


俺とライラは図書館から出て少し歩いた場所にあるベンチに座っていた。

ベンチは最初木でできていると思っていたのだが、

これ風化しないように加工された骨だ。骨が椅子の形に組まれている。


そんな異世界ならではの驚きを感じながら、

俺は淡々とライラに問いかける。


「別にそんな事ないと思うぞ。みんな翼だったり尻尾だったり生えてるし」

「うぅ…けどそれは気味が悪くないじゃないですか」


相変わらずうじうじとするライラの方を見る。


黒い帽子からしなやかな髪が伸び、高揚する頬に張り付く。

女性的な胸部から、腰の括れを通り脚までが綺麗なラインを描いている。

スカートの上に置いている黒い手袋の指先一本一本までもが細く美しい。


間違いない。俺が今の人生で出会った中で一番スタイルがいい。

今更ながらその魅力的過ぎる体躯を意識してしまったせいで、

少しだけだが俺も緊張してしまう。


『シュン様なに緊張してるんですか』

「うるせぇ思春期男子は情緒不安定なんだよ」


エルの茶々に対して突っ込みを入れる。

こうして一テンポ置くと緊張が薄れ、落ち着きを取り戻す。

エルのアシスト力にまた助けられてしまった。


しかしこのままでは話が進まない。

袋小路に差し掛かった俺を救ったのはまたもや天使だった。


空からハーピーが一人、こっちに降りてくる。

特徴的な露出の多い服に橙の翼、レリィだ。


「こんにちはー、シュンくん」

「おう、レリィ」


レリィは俺に挨拶をすると、そのまま俺たちの前に綺麗に降り立つ。

一方のライラは見知らぬ第三者の登場で顔を隠してしまう。


「そっちの方はお知り合い?

 初めまして。ハーピーのレオノール・リボ・ズガです。

 どうもシュンくんがお世話になってます」

「いつからお前は俺の保護者に…」


ぺこりと頭を下げるレリィ。ライラは相変わらず俯いているが

その態度に「いえ、お構いなく」と短く答える。


そしてレリィはライラを…というより、

彼女の控え目に言ってとても恵まれたプロポーションを観察する。


「やっぱり…色々大きい方がいいのかな?」


羨ましそうな目でレリィがそう呟いていた。まぁ女の子だからね。

俺ももっと体力あった方がいいかなとかちょくちょく思ってたし。

こっちに来てから切実に必要を感じるようになったけど。


…友達を実験対象は気が引けるが、間違いなくレリィはいい奴だ。

彼女でダメなら本気でダメなのだろう。俺も覚悟を決める必要がある。

俺はライラの帽子に手をかけ、


「ライラ、ちゃんと挨拶したらどうだ」

「ひゃっあぁ…もってかないでー」


そのまま奪い取った。彼女の大きな単眼があらわになる。

いじわるしているつもりじゃあないが一々反応が可愛らしい。

彼女はその眼をレリィから逸らしながら、小さな声で自己紹介をする。


「そ、その…さ、サイクロプスの…

 ライラ・スヘル…カースタ。です…」

「わぁ…!」


驚くようなレリィの反応。お、やっちまったか?

これからの発言によっては俺は色々なものを失ってしまうぞ。

しかし俺の覚悟に反してレリィはライラに近づき、


「ぼく、サイクロプスの人と初めて話したよ!

 宜しくね、ライラさん!」


そのまま翼の先でライラの手をとる。

やっぱりレリィは天使じゃないか。彼女の存在にまた救われた。

そんな彼女の行動が予想外だったのか、ライラは戸惑い、されるがままになる。


「よかった、最悪の事態は避けれたようだ…」


元気に握手するレリィとおろおろするライラを眺めながら安堵する。

自分の行動は迂闊だったとも思うがそれ以外やりようがないからな。


人間関係でも戦闘でも、多少のリスクを背負わなければ前進しない。


「え、あの…この目、変じゃないですか…?」

「うん?」


俺にしたような質問をレリィにも投げかけるライラ。

やはり彼女にとってそれで随分と辛い思いをしたらしい。

しかしレリィの様子は変わらず、素直に答える。


「おっきくて、きらきらで、とっても綺麗だよ。

 それに変って言ったら君の隣に座ってるシュンくんなんか何もないよ」

「だろ? 俺もこいつの目は吸い込まれそうな魅力があると思うんだ」


二方向からのべた褒めによりライラが撃沈する。

今度は真っ赤な顔を隠すようにそっぽを向く。

その動作がやはり可愛らしくて、どうも俺は彼女を構いたい。


「なぁ、サイクロプスに初めて会ったって言ってたけど、珍しいのか?」

「うん。本とかで書いてるから存在は知っていたんだけど、

 町に来たのはぼくが産まれる少し前が最初だって。

 本当はずっと北の、海の向こうに住んでいるらしいよ」


海。やはりこの異世界にも海はあるのか。

つまり海があるという事は塩がある、塩があるなら食事の調味料に仕える。

更にそこから魔獣の肉を加工したり保存を…


いかんいかん。

少し重要なワードを踏んだからといって脱線してはいけない。

今はライラの事が先決だ。


「もしかして、その最初に来たサイクロプスがライラの?」

「…はい。多分うちの両親です」


なるほど、彼女の一家がこの町にとっての初めてのサイクロプスか。

ライラがひどい目に遭っている原因のヒントがあるのかもしれない。


「なぁ、少しだけその…親の話、聞かせて貰えるか」

「えっシュンくんライラさんのご両親に挨拶する段階なの!?

 いつの間にそこまで深い関係に…」

「ちげぇよメイド公認ビビりの俺にそこまで進展させる度胸はねぇぞ」


似たような事ならつい先日体験してきたけどな。

流石にあれをもう一度やれと言われると俺の胃に風穴があく。


ライラはそんな俺たちのやり取りを少し眺めた後、


「…まぁ、いいですよ。知りたいなら。

 あなた…シュンさんも、レオノールちゃんも優しいですし」


レリィは天使で女神だから優しいけど俺はそんなに優しくないよ。

俺は不快に感じた事を許せない、強欲で我儘なだけの人間だからね。


ライラは、ゆっくりと話し始める。

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