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19.異世界図書館…2

ナカタ・ユウヤの著書は言語の棚に大量にあった。

他の国の言語以外にも慣用句や言葉遣いに至るまで。


これについて聞こうと、少し遠くにいたライーサまで駆け寄り声をかける。


「このナカタ・ユーヤって人について知りたいんだが」

「あぁ、言語棚を占領してる人だね」


流石に有名らしく、ライーサも知っていたようだ。

彼女はえぇと、と少し考える素振りをしてから、


「図書の町を図書の町たらしめた開祖みたいな方らしい。

 種族はよくわかってないけど、その書籍の多さから

 多数の腕を持った怪物染みた人だったなんて言われているね」


開祖、という事はかなり昔の人物なのか。

流石に存命していないだろう。

直接会う事は不可能みたいで残念だ。


「図書の町に行けば彼について知る事ができるかな」

「まぁ…行ければ伝記もあるだろうし、

 もしかしたら子孫に会えるかもしれないね」


子孫がいるとしたら異世界の住人とこっちの世界で子を作れる事になるが…

昨日のメイの話がふと思い起こされる。

しかし、エルですらわからないと言っていたのだから多分無理だとは思う。


「けど図書の町まではかなり遠いし、砂漠を超えないといけない」

「砂漠…?」

「あぁ。図書の町はここから西に森をずーっと進んで、

 更にその砂漠を星と太陽を手掛かりに抜けた先にあるんだ」


どうも聞く限りかなり大変な道のりみたいだ。

狂暴な魔獣がいるとかそんな事ならエルの力で切り抜ける事ができるが

砂漠を渡るとなれば大量の水や食料とそれを運ぶ人員が必要になる。


とても俺個人では用意できそうにない。


「3年に一度、この町と図書の町の間で交易品と共に使者を送る。

 前回は向こうが送ってくる番だったから、次はこちらからだね」

「その、次の使者ってのはいつ頃なんだ?」

「あと半年と少しくらいかな…寸前になると町中が慌ただしくなるよ」


楽しそうに語るライーサ。

この町にとって、図書の町への使者とはかなり大きなイベントらしい。

彼女は自分の指に蔦を這わせ、例えば、と続ける。


「研究者のやつらは自分の作った魔法を送ってもらおうと躍起になったり…

 腕に自信のある人の中には使者の護衛になろうとする人もいるかな。

 あとはどんな本を持ってくるかみたいな投票もするよ」


使者の護衛。それなら俺にもチャンスがありそうだ。

しかし半年とはかなり先の話になるな。

ただ、その機会を逃すと図書の町に次に行けるのは六年も先だ。


新たな目標を見つけて俺はかつてない程にやる気になる。

来てよかった図書館。本当に色々な事を知ることができた。



その少し後、俺はライーサに


「ハーレティクスの詳細は出ていないけど、一応その描写がある本はあるよ」


と紹介された、『ジークリットの災難』という本を読んでいた。



ジークリットはワーウルフの少女で、元気な町の人気者だった。

ある日魔獣を倒しその死体を持って帰っていたところ、

ハーレティクスに襲われ両親と兄を失ってしまう。

彼女は深く悲しんだが、友人や近所の人たちの応援で立ち直る。

そして数年後、再びハーレティクスにより今度は友人の一人が

自分の身内の多くを失い、悲しみに暮れる。

ジークリットはかつて皆に支えられた経験から、

その友人を立ち直らせようと奮闘する。



…という物語だ。

俺はこのジークリットの健気な姿勢と町の人々の優しさに強く感動する。

そしてそのハーレティクスの描写についてだが、


『それは奇妙な三角の体を持ち、大きな水晶の欠片ようなものを漂わせていた。

 更にその周りを赤青黄緑橙紫その他多くの色が包み、

 そしてその全てが恐ろしいまでの魔力を秘めていた』


…この表現には心当たりがある。

多分これは俺とメイが戦い、真っ二つにしたアイツじゃあないだろうか。


知っているハーレティクスで残念だったという感情より先に、

ジークリット、みんな。お前たちの仇は俺が討ったぞという

物語の後日談を勝手に記してしまったような申し訳なさと

それを上回る強い喜びを俺は感じていた。


「…これって多分ノンフィクションだよな」

『だと思いますよ。ハーレティクスの描写が一部曖昧ですが

 この本に記されている攻撃魔法もあのタイプなら使用可能でしょう』


この本のハーレティクスは結晶を水平に漂わせ

レーザーを照射しながら回転させたり、

天に向かって撃った光の弾丸が強いカーブを描き落下したりと

俺が戦ったそれよりも攻撃のバリエーションは豊富だった。


「魔法ってことはこの世界の人たちもあんな事できるのか?」

『…今までに遭遇したこちらの世界の方々は全員、不可能です。

 魔力構成・結界展開・マギア管密度・詠唱速度…

 その他全てが遥か高次元にあります。

 ハーレティクスという存在はこの世界にとってあまりに逸脱しすぎています』


逸脱しすぎている。神話に存在しない異例、ハーレティクス。

魔獣だって危険な存在なんだ。生きるためにそいつらと戦って、

その上なんであんな災害と出会わなければならない。


そこでふと俺は嫌な事に気づいてしまう。


「なぁ、俺が今まで倒したハーレティクスも複数いるって可能性は…」

『否定はできません』

「えぇ…それはキツいな…」


ジークリット、みんな。ごめん、俺仇討ててないかもしれない。

しかしあんなものが複数いたら異世界の住人があまりにも可哀想だ。


…ほんの少しだけ、少しだけではあるが。

ハーレティクスを一体でも多く倒し、この世界の人たちを助けたい、

脅威を取り除きたいという意識が俺の中で芽生えた。

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