18.異世界図書館…1
「ここを曲がると…あった、あれが図書館じゃ」
「流石に大きいな」
図書館は他の施設に比べて遥かに大きく、
特徴的な色の壁や屋根があり遠目からでもわかりやすい。
「わかっとると思うが図書館では静かにな」
「おう。そこはどこでも共通認識なんだな」
図書館では静かに。それくらいは流石に知っている。
騒いだり遊んだりすると本が傷つくし読書してる人に悪いからね。
俺はゆっくりと図書館の扉を開く。
「おぉ…!」
そこには一面の本が置かれてあった。
あれら全ての1ページ1ページに俺の知らないこの異世界の
知らない物や出来事が載っているのだ。
その事実に胸が踊る。
「やぁいらっしゃい。イズモはまた来たんだね。
えっと…そちらのお客さんはまさか…」
ずりずりと何かを引きずる音を出しながら話しかけられる。
相手は女性であったが、体中をツタが這い髪は木の葉のような深い緑。
そして足は木の根そのものであった。
「おうライーサ。今日は友人を連れてきたぞ。
噂の人間、シュンじゃ」
「どうも始めまして。シュンです」
ライーサと呼ばれた女性はずりずりと根の足で俺の前まで歩み(?)寄る。
手を差し伸べられたので俺もそれを握手で返す。
「いやぁまさかイズモの友達だったとはね…
こちらこそはじめまして。ここの司書をやっている
ドリアードのライーサ・ヒル・ルーブだよ。ライーサって呼んでね」
彼女は興味深そうに俺を見ている。
…そうやって見つめられると恥ずかしいのだが。
満足したのか、俺の前を少し離れると司書の仕事を始める。
「ここはこの町で唯一の図書館。
みんなが書いた本やよそから仕入れた本を取り扱っている」
「他所ってことは、他にも町があるのか?」
さり気なくとんでもない情報が出てしまった。
多分ここに来て見るどの本よりも重要なんじゃないか?
俺の問いかけには隣のイズモが答える。
「シュンには言っておらんかったのう。
この町の他にもいくつか町はあって、多少じゃが交易も行っとる」
確かにそれは初耳だ。
流石にこの異世界に町は一つだけ、という事はないだろうと思っていたが
しっかりと交流もあるとなると一気に世界が広がる。
「この町は魔法の町、と呼ばれているよ。魔法の開発が盛んだからね。
ここにある本の多くは図書の町から魔法の技術と交換で貰ったものさ」
「…なんか、町の名前はそのまんまなんだな」
「わかりやすいからね」
ライーサが町について少しだけ説明してくれる。
格好良く何とかシティとか帝都なんとかかんとかみたいな
そういう名前を一瞬だけ期待したがちょっと残念だ。
「その町についての本もあるから、ゆっくりよんでいくといいよ」
それじゃあ、と彼女はずるずると俺とイズモをあとにする。
その途中で、蔦を使い棚から本を取り出したり戻したりしているのが見えた。
なるほど、彼女にとって司書は天職かもしれない。
「巨大な牛の魔獣への対処法…群生する魚魔獣の倒しかた…」
何となく入ってみた場所には魔獣についての本が置いてあった。
まだ見ぬ魑魅魍魎について調べるのはまるで
攻略本を覗いているかのような楽しみがある。
「まぁ、どれもお前なら一発だろうけどな」
『はい。勿論で御座います』
あ、そうだ。と少し調べたい物が思いついた。
それを書いた本がないか探してみるがなかなか見当たらない。
そこに再びライーサが現れた。
「何かお探しかい?」
「あぁ。ハーレティクスについて書いた本とかないかなって」
正直、魔獣についてはエルがほぼ一方的にどうにかするので
気にしなくてもいいと思う。
しかしハーレティクスだけは違う。
最初の一体は自ら隙を作ってくれたから無事に倒せたが、
昨日の相手はメイが注意を引いてくれなければ難しかっただろう。
せめて攻撃法だけでもわかれば対策ができる。
「ハーレティクスについて、か…
少し待っててくれないかな」
ライーサは懐から何か細長い板を取り出す。
ふと見ると名前と本が書いてある。
あれで貸し出している本を管理しているらしい。
「あぁ、やっぱりそうだ。悪いね、
ハーレティクスは出会った人大体死んでいるので本も少ないんだ。
その少ない本も借りられちゃってるみたい」
「そうか…。残念だ」
落ち込む俺に彼女は「返却されたらお知らせするよ」と言ってくれる。
無駄にサービスが充実していて逆に申し訳なくなるが
流石にこれは結構大事な案件のためお願いします、とだけ返した。
「さて、次はどこを見ようかな…ん?」
「言語」、とだけ書かれた陳列棚が目に留まる。
ふと朝食でのイズモの会話を思い出す。
ずっと前から使っている、という話だったか。
もしかしたらそのヒントがあるかもしれない、
くらいの軽い気持ちで一冊を取り出す。
「…え?」
そこに書いてあったのは俺の言語とは違う…
しかし、向こうの世界には確かにあった言語の辞書だ。
数々の単語の訳と使い方が載っている。
しかし、流石にこれはいくらなんでもおかしい。
この異世界には俺の国の言語だけではなく、
他の国の言語まで使われているというのか?
俺はその本の表紙を確認する。
『空想言語辞書ハ国』
「空想…?」
空想や妄想でここまで一致した辞書を作れるものか。
俺は本を裏にして著者と、あればあとがきを確認する。
『この本が、格好いい名前やイケてる言い回しに使われますように』
『ナカタ・ユーヤ』
「なかた…ゆうや……」
ナカタ・ユウヤ。この響きは俺のいた世界にもありそうな名前だ。
それに、今まで出会った異世界の人々は名前の後に二つの苗字がつく。
それを考えても、このナカタという人物が俺と同じ世界から来た可能性は高い。
先にこの異世界に来て、本を書いている人がいる。
俺はその事実に驚くと同時に、その人に会いたいという思いも抱くのだった。




