14.兎の少女はやりたい放題
俺は一旦自室に戻った。
メイ曰く昨日着ていた服が部屋にあるはず、との事だ。
部屋に着くと流石に疲れが溜まっていたのか
備え付けの椅子に座り込んでしまう。
少し休んでから着替えようか…
「しかしエル、お前はこれでよかったのか?」
『メイがシュン様にお仕えすると宣言した事についてですか?』
「そう、それそれ」
左腕の傷はメイを治す時に使った物体のおかげか血は止まっている。
しかしかなり早い治療が必要なのは明白だ。
『わたくしはシュン様の味方になってくれる方が一人でも増えるなら
それは素晴らしいことだと思います』
「いやぁ、わたくしが先輩だからなとかお前は二番だ弁えろとか
そういう事言わないのかなってドキドキしてたけどそれならよかった」
『シュン様の中でわたくしはそういうキャラなのですか…
ご所望でしたらそういったロールプレイも可能ですよ』
いや別にやらなくていいから。
メイとエルは仲が悪いような印象を抱いていたが勝手な思い込みだったらしい。
あるいはこの案件と仲の悪さは矛盾せず同時発生し得るのかとか考え出す。
さて、そろそろ着替えるかと立ち上がると、
扉がバァーンと開かれる。
「ご主人様、お着換えのお手伝いに参りました」
早い。流石に早すぎる。
メイは先ほどのメイド服から別のメイド服に着替えていた。
フリルとリボンを多く使ったそれはさっきの物より可愛らしい印象を受ける。
「早いな…」
「まぁプロですから」
その一言だけで無駄に説得力がある。
「ご主人様もお疲れでしょうし、傷跡も痛むと思いますので」
「メイは大丈夫なのか。その…左腕とか」
左腕の…切断されて繋いだ部分には白いリボンがまかれ、
不自然な接合部を隠している。
そこが少しだけ痛々しくて、目を逸らしそうになる。
「わたくしは大丈夫ですよ。元々かなり頑丈ですし。
こっちの腕はちょっと動かすの苦労しますけど
多分慣れれば問題ないと思います」
彼女は左手を軽く動かしてみる。
グーとパーを繰り返す動作でも少しぎこちない。
「ごめん。俺がもっと早く治療してたら…」
「もう、なんでご主人様が謝るんですか。
そこは俺のおかげでその腕繋がったんだから
お前は一生を使って感謝しろよくらい強く出ていいんですよ?」
いやぁ流石にそこまで態度でかくなれないかな…
そんな会話をしているうちに彼女は素早く俺を着替えさせる。
拒絶する気力もない俺はされるがまま。
そうしていると遂にズボンにてをかけ始める。
「いや流石にそこからは自分でやる」
「遠慮なさらずに」
「単純に恥ずかしいからだよ許して」
なら仕方ないと彼女は手を放す。
しかし一行に部屋から出る気はないらしい。
ちょっと出ててというより先にメイがエルに問いかける。
「そこのエルさん。少し聞いてよろしいですか?」
『なんですかメイ』
「あ、まだ呼び捨てなんですね…いや少し気になったんですけどね」
「人間とわたし達の間に子供って作れるんですかね?」
『は?』
メイに対して二度目のは? が射出された。
しかし今回のは前回とは意味合いが違う。
明らかに質問の意図がわからないというものだ。
俺も突然のメイの発言に停止してしまう。
「だって姿かたちは一緒じゃないですか。
しかもわたし達ケンタウロスとミノタウロスで子供作ったりできるんですよ。
馬と牛ですよ? じゃあもっと近い人間とも作れるんじゃないかなって」
『…それに答える前に一つだけ。
なぜそれをここで、このタイミングで質問するんですか?』
「いやご主人様とワンチャンスあるかなって」
『』
怒涛の追撃でエルも停止する。
俺はなんか迫ればやらせてくれる尻軽みたいな認識らしくて悲しくなってくる。
メイだけ元気。それ以外機能停止。
「いや、流石にこういうのは段階を置いて、
ゆっくり進めていくものだとは思いますよ。
けどもしご主人様がけだものになって迫ってきたらわたしとしても心の準備が」
「ねーよ。お前も言ってただろ俺は臆病だって。
そんな奴が勇気の塊みたいな事できると思うか」
「まぁ、それもそうですけど…」
むしろ俺はお前に襲われるのかと思ったぞ。
『…一応答えますけど。それはわかりません』
エルから意外な答えが返ってくる。
今までイエスかノーか難しい言語の羅列でばかり答えてきたが
ストレートにわからないと返ってきたのは初めてだ。
『生命の誕生は少し要素が複雑ですので。
わたくしの観測系統では断定できません』
「そういうものなんですか」
『そういうものなんです』
メイは少しだけ不服そうだが一応は納得したようだ。
俺は今更ながら恥ずかしいから出ててというと
彼女は少し惜しそうにそのまま退出した。
「いや、しかし…まだ俺高校生だぜ」
メイの爆弾投下のせいですっかり調子が狂ってしまった。
ついさっきまで大仕事を終えた戦士みたいな気持ちだったのに
今はただの思春期のガキだ。
『こちらでは婚姻適齢期が低い可能性は十分あります』
「あぁ、確かに昔は俺くらいかもっと小さい年で結婚してたらしいしな…」
この問題は深く考えないでおこう。
ここで区切ってこの事は忘れることにした。その方が精神安定上よろしい。
それよりはイワミに会いにいかねばならない。
今はその事が最優先だと俺は自分に言い聞かせた。
この事が再び俺を大きく困らせる事は予想できていたのだが、
俺はあまりに呑気過ぎたと後々後悔することになる。




