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13.強欲で臆病

「一体なんで、急に…?」

「まぁ、そうですねぇ…」


俺とメイはなんとか道を見つけ天井が開けた巣穴から脱出を試みる。

生き残りの巨大蟻がいるかもと少し警戒してはいたが、

ハーレティクスの爆発で吹き飛んでしまったらしい。


「そもそも、わたし達の種族は代々、

 誰かに仕える事が使命みたいなところあるんですよ」

「先祖代々誰かの召使って事か?」

「元を辿れば創造主の手足として働いていたって話らしいですが…

 まぁ流石にそんな神話の事はわかりません」


ちょっとした崖に突き当たる。

メイは簡単にそれを登り、上から俺に右手を差し出す。

俺がそれを掴むと彼女は力強く引き上げる。


「それで、わたし達は一生を捧げると決めた相手に出会ったら

 この首輪に鍵をかけて貰います。

 …最近はそんな相手に出会う事自体が稀らしいですけどね」


ちゃり、と首元にある錠を見せる。

流石に一生を捧げるなんて重い言葉をそのまま受け入れる事は

ただの元高校生の俺には難しい。


それに、一つ疑問もある。


「なんで、俺なんだ? 助けた事に負い目があるならそれは…」

「もう、ご主人様。舐めないでください。

 わたしがそんな軽い女に見えますか?」


いや、むしろ相当へヴィな類だと思うよ。

俺はむしろ彼女に失礼な事を言った気がして少し申し訳なくなる。


「別に恩があるとか、ハーレティクスを倒したから凄いとか、

 そういうのは別に要素の一つでしかないんですよ」


分岐にさしかかる。彼女は少し立ち止まりうさ耳をぴょこぴょこと動かす。

遠くの音を聞いているようだが、その仕草は流石に可愛らしい。

こっちですね、とメイは先を行く。


「ただご主人様の誰でも助けたいっていう強欲っぷりとか、

 その力を見せびらかせない臆病さとか…

 そういうのが、なんだか良いなって」

「…俺、そんなに欲張りでビビりか?」

「博愛とか謙虚って言いかえれますけど、

 ご主人様にそういう綺麗な言葉似合わないと思いますよ」


まぁ、そうだな。

強欲で臆病、これは結構俺を表現するのに適している気がする。

いいじゃないか。小市民的で。


「それで、この人の行く末を見たいな、隣にいたいなと…

 あとは流れですね。多分押せばいけると思ったので」

「流れで鍵を爆破したのか」

「はい」


押せばワンチャンスあるだろでそのまま押し通される

俺にも問題があるのではないか。


「他には後先考えない決断力も好きですよ。

 ついさっきまで敵対してた相手を庇うなんてアホらしい事

 なかなかできることじゃないですよ」

「だ、だって…それはメイだったから…」

「そう、そこなんですよご主人様」


メイがくるりとこちらに振り向く。

ボロボロのメイド服のスカートがひらりと舞う。


「一日二日ちょっと一緒にいただけでそれは流石にちょろすぎます」

「やっぱ俺ちょろい…?」

「はい。激ちょろです」


激ちょろってそこまで言うか。

しかし本当の事なので反論の余地はない。


「…ですから、わたしが近くにいて、

 わるーい女に騙されないようにしないと…っていうのと」


彼女は右手で俺の手を握り、ぎこちない動きで左手も添える。


「もし、ご主人様がわたしみたいに面倒な女の子を助ける時、

 力になってあげたい。傍にいて支えたい。それだけです」


ここまで言われては流石に何も言えない。

彼女がそれでいいと思うならそれでいいのだろう。


「…たぶん、いっぱい迷惑かけると思うぞ」

「どうぞ、どんとかけて下さい。沢山頼んで下さい。

 それこそお仕え甲斐があるというもの」


今のメイの笑顔は決意と嬉しさを織り交ぜた、

とても幸せを感じさせるものだった。



待機していたケンタウロスのお兄さんは無事だった。

魔獣の巣が爆発した衝撃でもしやと思っていたが杞憂になってよかった。

彼は俺の傍を歩くメイの首輪を見るや否や


「やるじゃねぇか! 人間!」


と無駄にでかい声で喜んでいた。流石に恥ずかしい。

あの人も凄い慣れ慣れしいけど良い人だと思う。


それから真っすぐ町に戻ると、既に夜になっていた。

ケンタウロスのお兄さんと別れイズモの屋敷へ向かう。


「メイってイワミさんのメイドだったと思うが、これからどうするんだ?」

「何も変わりませんよ。雇用上の主はイワミ様で、

 わたしの一生のご主人様はあなたというだけの事です」


更に「ご主人様が働かなくてもわたしが養ってあげますよ」と

ご主人様とはいったいどんな概念なのか疑問になる呟きが聞こえる。

ここに来て俺の人生ヒモルートを再起するのはやめて。


屋敷に入ると、丁度あの柴犬さん(仮名)がいた。

彼女はこちらを見つけると


「メイさん。今日一日見ませんでしたがどこに…


 えぇ!?」


俺の人生で最大級の驚きっぷりを見せつける柴犬さん。

彼女はあまりの衝撃で体勢を崩しそうになるがなんとか持ちこたえる。


「えぇ…? いやけど…えぇ?」


間違いなくその混乱の元はメイとその首輪だ。

メイは疑問と驚愕の連鎖で自己を失いそうな柴犬さんに声をかける。


「アサマさん、只今戻りました。イワミ様はいらっしゃいますか」

「あ、はい…。自室でイズモ様が持ってきた資料の精査を…

 いやそれよりメイさん、その首輪は…?」


やっと正常な言語を取り戻した柴犬さん改めアサマ。

彼女は早速メイに混乱の元を問いかける。


「はい、わたしはこの方に一生お仕えすることに決めました。

 ご主人様共々改めて宜しくお願いしますね」


メイは俺の少し後ろで小さく礼をする。

それを受けて更にアサマは混乱した。


「ご、ご主人…? えー?」


再び語彙が消滅し言語能力を失う。

この人面白いな。


そんなアサマを置いてメイは着替えてからイワミ様の元に行きましょう、

と俺の先を行き案内を始めた。


これまでメイから受けた案内に比べてぐっと近づいた距離が

俺と彼女の関係が変わった事を示しているようで、

なんだか少しだけ嬉しかった。

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