11.不条理を切り裂くチートの頂
無意味と悟ったのか、ハーレティクスの攻撃が止む。
今度は八面体三つ組み合わせ、更にその前方にそれを反対にした図形を作り…
『六極魔導連照砲…!』
エルが知らない単語を漏らす。
その言葉の意味はわからないが何か危険なものらしい。
『メイ。障壁の形状を変化させると同時にシュン様を持って
横に全速力で逃げてください』
「わ、わたしがこいつを…?」
『生き残りたいなら従ってください。はやく!』
光の壁が半球の状態から垂直に起立する壁に変化する。
俺はわけもわからずメイに抱えあげられ運ばれる。
メイの全力は第一歩からとんでもない速さだった。
それと同時にハーレティクスから光線が発射される。
一瞬で光の壁に衝突し…
『許容マナ振幅を突破。破壊されます』
そのまま貫いた。
同時に、浮かぶユニットが爆発する。
少し遅れて、光線を発射した際のものと思われる熱波が襲いかかる。
もし僅かでも逃げ遅れていたらどうなっていたことか…
「まさかぶっ壊されるとはな…」
『申し訳ありません。わたくしの選出ミスでした』
エルの出す道具はいずれも並外れた性能を持つ。
最初のハーレティクスの際もすべての攻撃を防ぎ、
こちらの攻撃は全て大ダメージを与えていた。
俺にとってエルが真正面から打ち破られたのは初めての体験だった。
「…で、どうやってあいつを倒すんだ?」
メイが抱えたままで俺とエルに話しかける。
ほんとこんなタイミングで申し訳ないしどうでもいいんだけど
さっきから肘にその…胸が……いや、やっぱいいや。
『この距離ですと、わたくしを接続する隙に攻撃されかねません』
「やっぱエルを接続する武器じゃないと倒せない感じなのか」
『はい。あの領域の存在ですとECシリーズの使用が不可欠になります』
ECシリーズ。確か最初のハーレティクスを倒した銃も
ECなんとかって名前だったはずだ。
恐らくはエルが出せる最高・最強の武器群がそれなのだろう。
「なんだ、わたしに囮をやれって事か?」
「な…!」
『はい。それが最善策です』
絶句する俺を置いてメイとエルの間で話が進んでいく。
囮だと…? 冗談じゃない。
見す見すメイを危険に晒すような真似はしたくない。
「…まぁ、こういうのも悪くないかもしれないね」
俺を下ろし、メイはこちらに向きを合わせるハーレティクスを見る。
その姿は何かを決意してしまったように見える。
「ちょっと気に入ってた奴を殺さないで済んで…
しかもアイツを道連れにできるってなったら。
そりゃあもう大往生じゃないか」
何を言っている? 何が大往生だ?
こんなところで死ぬつもりなのか?
誰がそんな事を許した。
…少なくとも俺はそれを許さない。
「じゃあ、ちゃんとあいつ倒すんだよ!」
「ちょっと、待って!」
俺の声も空しく、メイはハーレティクスに向かって飛び出す。
ハーレティクスは数々の光線で迎撃するがメイは横に飛びそれを躱す。
『シュン様。今のうちにEC02の発動準備を』
エルの画面にはいつか見た星のアイコンだけが光っている。
しかし、その周りにはあの時のように煌びやかなマークは一つもない。
俺はこれの意味する事を察した。
「…それを撃ったら、メイはどうなる?」
『…。これがシュン様が生存する最適解です。
メイもそれを理解しているはずです』
かつて俺とエルが使用した大きな銃器。
あれの威力は凄まじく、きっとメイすらも吹き飛ばしてしまう。
「なぁエル。一つだけ約束してくれ」
メイが砲撃を放ち、ハーレティクスはそれを石数個で生み出した壁で防ぐ。
更にその倍の石が光線を放ち、メイはそれをギリギリで避ける。
彼女の顔は笑っているが、余裕はない。
「二度と俺に誰かを犠牲にして生き残れなんて言うな。
俺は誰も見捨てるつもりはない。わかったな」
『……はい、シュン様。申し訳ありませんでした』
メイは俺に刃を向けた。
だがそれがどうした。そんな事大した事じゃない。
あいつは得体の知れない俺に、少しは気に入ってたと言ってくれた。
それでも町のために戦おうとしていたんだ。
魔獣をほぼ無傷で倒す、未知の力を持つ相手に挑もうとしたんだ。
そんなに町を思っていて強い女の子が、こんなところで死んでいいはずがない。
お前は素敵な男性の隣で一生、飽きるほど幸せに暮らすのがお似合いだ。
それ以外は俺が許さない。
俺は絶対に、こんな不条理には、折れない。
「なぁエル」
『はい、シュン様』
「少し俺の無茶、聞いてくれるか」
『どうぞ何でもおっしゃってください。
わたくしはシュン様のために尽くします』
「クソッ! これでもダメか!」
ハーレティクスの強さは圧倒的だった。
全ての攻撃は防がれ、相手の攻撃は瞬足。
石と結晶の先を見てなんとか避けているが、それも長続きはしない。
「なら…! これしかないだろ!」
ハーレティクスの攻撃が一波過ぎたところで一気に突撃。
石の光線も斜めに飛び、更に近づく。
≪り…りぃ…≫
八面体が光線を出し続け、地面から天へと切り上げるように動かす。
それを間一髪回避したものの、当然それで終わりではない。
≪りぃ、り!≫
上げた光線を今度は真下に振り下ろす。
その速度に回避が間に合わず、左腕に激痛が走る。
どんな状態か確認している暇などない。更に距離を詰める。
「ぐぅぅぅぅ! これでもくらえ!!」
ほぼ目の前まで来て、右腕の武器をそのまま投げつける。
それは障壁の妨害を受けることなくハーレティクスの頭部に命中する。
極彩色の石がいくつか動く。
あそこから放たれる光線に当たれば即死だろう。
そこに、
「メェェェェェェェェェェイ!!」
「はぁ!?」
俺が、飛んできた。
大きなブースターのついたゲテモノブレードは
メイに意識が向いていたハーレティクスの横っ面に刺さる。
≪りぃ! りぃぃぃ!≫
同時に俺は身を乗り出し、メイに手を伸ばす。
「掴め!」
「え、あっ、はい!」
メイは残った右手で俺の左手を強く掴んだ。
同時に俺はブレードを放し、体をメイに任せる。
ブレードの力に耐えきれなくなったハーレティクスは
そのまま壁に向かって直進、激突する。
「ちょっと、もう! なんなんだ!!」
メイは勢いで持っていかれそうになるが持前の怪力で踏ん張る。
俺は左腕が脱臼しそうになりながらも、かろうじて無事だった。
「なんで、こっちに来たんだ!!」
「俺は、あんたにも、誰にも、死んでほしくないだけだ!!」
切断された左腕を抑えながらメイは俺に問いかける。
それに対し俺は本音をぶつけて答える。
これ以上の回答などどこにもない。
俺はエルの画面に新たに表示された流星のアイコンをタッチする。
周りは『大ヒット!』『最高!』と煌びやかに飾られていた。
巨大な剣が目の前に刺さる。
青い装甲と純白の刃を持つそれは、とてつもない力を感じさせた。
『EC04。シュン様、あなたに勝利を』
ハーレティクスは即座に浮かび上がり、反撃のために八面体を滞空させる。
しかし、俺は既にエルの接続を完了させ、その剣を振り上げている。
それを確認した瞬間、ハーレティクスに変化が起きる。
≪り! …りぃ!≫
大量の石を円形に配置し1つ、2つ、3つ。
6つの八面体を全て使い、大きな1つ。
更にひし形の尾で三角形の頂点を繋ぐように1つ。
合計で五つの光の壁を展開させた。
全力・全開、持てる力全てを防御に注いだという形のようだ。
だが、
「やるぞ、エル!」
『はい、シュン様!』
天を刺す剣を、持てる力全てで振り下ろす。
瞬間、純白の斬撃が飛び、ハーレティクスへ直進する。
シュイイイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィィィン!!!
そして、
≪りぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!≫
数々の障壁は一瞬たりともそれを止める事すらできず貫かれ、破られ、
その先にいたハーレティクスを完全に真っ二つにする。
次の瞬間、斬撃の跡が白い奔流を巻き起こしハーレティクスを飲み込む。
音もたてずに八面体が、極彩色の石が、本体が、飲み込まれる。
こうして、俺は二体目のハーレティクスに勝利した。




