10.絢爛のハーレティクス
「な、なんで…?」
「なんでって? まぁそうだね…
あんたの底が知れなさ過ぎる。ってのが一番かな」
メイは笑っている。
しかしそれは仲間に見せるそれではなく、
戦闘時に自らの余裕を示すかのような笑いだ。
「本来なら魔獣の巣窟に入り込むなんて危険極まりない。
まぁわたしは強いから別だけどね…
それをあんたは何も疑問も持たずついてきて、そしてここまできた」
その眼は敵意に満ちている。
「それだけの力を持ちながらそれを誇示するでもなく、
まだまだ余力を隠し持っている。
…そこまで強くて、真意の見えない奴を町にはいさせれない」
「俺は、ただ…!」
彼女はその大きな武器を構える。
切っ先は当然俺に向いている。
「さぁ、構えな!」
戦わなければならないのか?
事情を説明すれば理解を得られるか?
ここを切り抜ける方法を俺はぐるぐると考えるが、
何も思いつきはしない。
右手に握るエルはただ一言、
『シュン様、お選びください』
剣のアイコンと、盾のアイコン。
倒すか、防ぐか。
そんなものは決まっている。俺は
≪ぱきっ、ぱきぃ…≫
いつか聞いた音。
本能が騒がしい程に、あらゆる警鐘を伝えてくる。
俺とメイは同時にその音の鳴った方へ向く。
ハーレティクス。
割れる空間、その中にある極彩色。
俺はその一部がキラリと輝くのを見た。
「危ないっ!!」
「わっ!」
持てる全力でメイの方に飛び出し、そのまま押し倒す。
彼女の柔らかな体が押し付けられるがそれを感じている暇はない。
その直後、光の雨が裂け目から吹き出す。
前回遭遇した別のハーレティクスにはなかった攻撃法だ。
一筋が左腕を掠め、そこから焼けたような痛みが走る。
「ぐ、ああああああ!!」
「いきなりなにを…!」
蟻に噛まれた比ではない痛みだ。
どくどくと出血し、止まる様子はない。
≪りぃ、りぃ…≫
割れ目からそいつは三角形の組み合わさった顔のような物を露出させる。
その横から更に空間を剥ぎ取り八面体の結晶が出てくる。
…それぞれに強い光を持ちながら。
『MC-045ズウェルⅢ。こちらの発動処理が優先します』
倒れた俺たちの少し上に、小さい円盤のような物体が浮かび上がる。
そこから光の壁のようなものが俺とメイを包んでいく。
そう、俺は盾を選んだ。
例えメイが強力な力を持っていたとしても、
恐らくエルならばそれを真正面から砕き、倒す事も可能だろう。
しかし、それでいいはずがない。
俺はメイの攻撃を全部受けながら俺の全てを話すつもりだった。
異世界から来た事、その寸前にエルを渡された事、
イズモとレリィに出会ったこと…
それでもなお信頼されないなら、俺はあの町を去るつもりでさえいた。
その決意はこうして乱入者によって中断されたのだが。
≪りぃ、りぃ≫
光が更に強まり…
そして、爆発する。
ピィィィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイ!!
視界が白に染まる。
それはあまりに容易に、何もかもを消し飛ばした。
「おいおい、嘘だろ…」
土埃と煙で遮られているが、確かに日光が見える。
つまり、天井が全て吹き飛んだ。
こうして生きている事に疑問を覚える程だ。
「…なぁ、そろそろどいてくれないか」
「あっ、ご、ごめん」
俺は光の壁から出ない程度にメイの横に座る。
メイは何も言わず自分のスカートの裾を破く。
「腕出せ。腕。早くしろ」
「え、はい」
つい言われた通りに左腕を差し出すと、
メイはさっき破いた裾で傷を塞ぐ。
俺は傷口を結ぶメイの真剣な顔しか見れなかった。
「応急手当にしかならんが、ないよりマシだろ」
「どうして…」
「それはこっちの台詞だよ。なんでさっきわたしを助けた」
心なしかメイの言葉から険が少しとれている気がする。
どうしてもといわれてもそれ以外の行動が思いつかなかったとしか言えない
が、
強いて言うなら…
「…メイ、だから?」
「なんだよそれ。…わたしはお前を殺そうとしてたんだぞ」
まぁ我ながら少し一緒にいただけで
助けるために体が動いてしまう俺にも問題があると思うがね。
煙が晴れてくる。
ハーレティクスの姿が明らかになる。
刺々しい三角錐の頭部から四角錐の胴体が伸び、
その下にはひし形を連ねたような尾らしき物体が三つ伸びている。
さらに両側は大きな八面体の結晶が3対漂い、
それらを大きく覆うように極彩色の光を持つ石がいくつも浮かんでいる。
こちらに気づいたのか、変化が起きる。
「お前、あれから逃げれるか?」
『逃げるのは難しいと思います」
「…そっか」
メイの問にエルが答える。
それを受けたメイは少しだけ諦めたような顔になる。
ハーレティクスは八面体を交差させ、更に極彩色の石を舞わせる。
その石は数個で一つの円を描き、突然停止。
そして、一斉にこちらを向く。
≪りぃ…りぃ…≫
ズドドドドドドドドドドド!!
大量の光線が光の壁に衝突する。
それらは全て壁に阻まれ霧散する。
しかし、その衝撃で俺とメイのいる空間まで強く震える。
『ですが…』
俺とメイはエルを覗き込む。
そこにはいつもの元気な顔文字が踊っていた。
俺はそこから続く言葉を完璧に言い当ててみよう。
「あいつをぶっ倒す事は可能だろう?」
『あいつをぶっ倒す事は可能です』
本当に同時だった。
エルは俺に『台詞とらないでください!』と怒っているが
わかりやすい前振りをしたお前も少しは悪いからな。
「…本当か?」
メイは未だに信じ切れていないようだ。
だからこれから見せてやろう、俺たちの全てを。
最初から明かすつもりだったんだ。
試し打ちに丁度いい相手が出てきただけで、何も問題はない。




