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8.蟻塚調査作戦…1

結局一晩考えたがいい案はでなかった。

綺麗に洗われた懐かしの制服に着替えながらエルと相談するが進展はない。

そして無計画のまま、向こうのアクションを受ける事になる。


朝食後、俺はイワミに呼び出された。

因みにイズモは俺が寝た後に帰宅してまだ寝ているらしい。

聡明な彼女なら何か思いついたのかもしれないが、

彼女は彼女で忙しいようなので仕方ない。


「おはよう、シュン。いきなりお呼びして申し訳ありません」

「いえ、特に用事もないので…」


イワミは前会った時と同じ様子であり、少し安心する。

そこに後からうさ耳メイドさんが「入ります」と一声をかけて入室する。

…こっちは警戒心バリバリだ。


「先日の魔獣の撃退、お見事でした。

 採集のグループでは人間のイメージが大きく向上しており、

 シュンが町に馴染む大きな一歩になったと思います」


やはりその話か。覚悟はしていたがいざ直面すると緊張するな。

彼女は固まる俺を知ってか知らずか淡々と続ける。


「そこで、シュンにその力を活かす機会を与えようと思います」

「機会、といいますと」

「少し前、ある魔獣の巣が発見されました。

 以前はなかったもので、最近になって作られたものだとは思います。

 それの調査を是非あなたにお願いしたいのです」


なるほど、こう来たか。

つまりはそれで町にとって有用かどうか、

あるいはどれ程の実力かどうかを測るつもりなのだろう。


「無論、危険ですので一人でとは言いません。

 同伴者をつけます」

「同伴者…?」


まずこの屋敷に住んでいて、一番ついてきそうなのはイズモだ。

あるいは俺を物置から呼び出した柴犬さん(仮名)も強そうだ。

…そして、もう一人。


「メイ。お願いできますね」

「はい、お任せを」


メイと呼ばれた少女…うさ耳メイドさん、

正式名称うさ耳メガネおっとり毒舌メイドさんはゆっくりと前に出る。

そのまま、俺の隣に並ぶ形になる。


「シュン、メイ。二人で目標の調査をお願いします」

「メイ・ブイ・アサバス。了解しました!」

「りょ、了解しました」


結構長い間近くにいた気がするが彼女の名前を初めて知った。

こんなんだから疑われるんだよと自嘲する俺がいた。



ケンタウロスの人が引く馬車…ならぬケンタウロス車に

俺とメイの二人だけが乗る。

空気は完全に凍結していた。


「…メイ、って言うのか」

「はい?」

「いや名前知らなかったからさ」


沈黙を破ったのは俺だった。

人生史上最大のコミュ障っぷりを発揮している。


「あぁ、まぁ伝える気もなかったですから」

「…さらりと酷いこというな」


いつもなら流せるメイの毒舌も今日はよく刺さる。

…刺さりすぎて泣きそうだ。


「これ言っていいか微妙なんですけど、

 わたしあなたの監視を任されてたんですよね」

「監視?」


彼女はこちらを見ずに、馬車の進路方向だけを眺めている。


「ぶっちゃけるとわたし町一番かどうかは微妙ですけど

 屋敷の中では一番強いんですよ。

 それで人間さんが変な事しないようになるべく傍にいたわけでして」


確かに屋敷にいる間は常に彼女が近くにいた気がする。

むしろ他の使用人を遠ざけていたのだろうか。


…これは結構なショックを受けた。

異世界に来てから最大級かもしれない。


「はぁ…そっかぁ」

『シュン様、元気を出してください』


本気で凹む俺を見かねてエルが話しかけてくる。

一瞬だけメイが俺…いや、厳密には俺の持つエルを見た気がする。


『他の誰がどうであろうと、絶対にわたくしだけはシュン様の味方です』

「今はちょっとだけその言葉でも不安かな」


馬車は荒い山道をガタガタと進んでいく。

俺の精神状態はそれ以上にガタガタだった。



天を貫く大きな土の塔が見えたところで馬車は停止した。

ここまで運んでくれたケンタウロスのお兄さんがこちらを向く。


「ここから先は歩きでお願いします。

 何が合ったら煙か火魔法で知らせてください」


メイは何か大きな鞄を軽々持ち上げそのまま降りる。

俺も降り、そのままケンタウロスのお兄さんに礼をして

通り過ぎようとしたところを呼び止められる。


「きみ、魔獣を粉砕して調理済みにしたっていう人間だよね?」

「え、えぇ…?」


噂に色々なものが付け加えられていつの間にか料理人になっていた。

お兄さんはそれを肯定ととらえたのか、勢いのまま喋り出す。


「あのムーンラビットのお姉さんを狙っているのかい? やるねぇ!」

「狙っているって、えぇ…?」

「まだ首輪がないからチャンス、あるよ! 頑張りな!」


この人の言っている単語はなんとなくわかるが会話の内容が全くわからない。

とりあえずメイたちの種族がムーンラビットという名称らしい事だけはわかった。


しかし、首輪…? それが何か意味のあるものなのだろうか。

俺はそんな事はすぐに忘れ、先に行くメイを追いかける。



この時、俺はお兄さんにもう少し話を聞くべきだったかもしれない。

そう後悔するのは少し先の事である。

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