7.兎の少女は疑う
「本当に君がやったのか!」
「ここまで無傷なら全身を使えますね。有難う人間」
「人間はとても優秀な魔法の使い手らしいな」
「なんかよくわからんが凄いぞ、人間!」
町に戻ると俺は称賛の嵐に包まれた。
ロバートさんが魔獣の死体を運ぶ人を集めてくると言い、
戻ってきたらこれだった。
今は採集グループ内で収まっているが、
恐らく数日には町中で「人間が魔獣を瞬殺した」とか
「不思議な力で永眠させた」とか、
そんな色々なものが追加された噂が流れているだろう。
「あ、ありがとうございます…」
俺は疲れた笑顔でそう答えるしかなかった。
人間でありながら素直に褒めてくれる彼らにきっと悪意はないのだ。
むしろ良い人たちだ。
「しかし悪いことしたかもしれんな」
イズモの屋敷に戻り、やっと一人になれた俺はエルに話しかける。
因みにイズモはまだ帰っていないらしい。
「イワミさんが俺の事限られた人にしか話さず
採集グループに入れてくれたのに…
これじゃあ一瞬で町中に広まるぞ」
そう、レリィが持ってきたこの仕事を仲介してくれたのはイワミだった。
彼女はロバートさんや採集グループの一部だけに俺の事を明かし、
そのうえで俺は働かせて貰っていたのだ。
イワミの気遣いを無駄にしているようで、少し悪い気もする。
『それでしたら、問題ないと思いますよ』
「そうか?」
スマホの画面には明るい笑顔のエルがいる。顔文字だが。
今回もエルに助けられてしまったなと思うが
それについてあまりしつこく言うとエルが嫌がるので今度にしよう。
『人間に対するイメージの問題は
先にここに来た人間の影響が大きいと思われます。
ですが、今回の討伐によりそれ自体に変化が起こるのではないでしょうか』
「そう。うまくいくもんかね」
『ご安心ください。きっとシュン様ならば大丈夫です』
エルは俺の実力そのものを過信か誤認している節がある。
俺はそんなに大層な存在じゃあない。
お前がいなければ先にいた人間と同じ道を辿っていてもおかしくなかったんだ。
けどやはりそれについても言うとエルが嫌がるので黙っている事にした。
うちのスマホは意外と好き嫌いが多い。
そうして話していると、がちゃりと扉が開かれる。
夕食の時間だろうか?
「人間さん、いますかぁー?」
あのうさ耳メイドさんだった。
喧嘩寸前まで行きながらその態度に変化は見られない。
「はい、夕食ですか?」
「それもあるんですけどぉ…」
いや、違う。
何か雰囲気がおかしい…
しかもそれは俺に向けられている。
「人間さんが、魔獣を倒したって本当ですか?」
「あ、あぁ…。そうだけど」
明らかに敵意や警戒心の類だ。
魔獣を倒して褒められまくって調子に乗っていた俺は
この態度の意図が読めず戸惑う。
「今朝は疑ってしまい申し訳ありませんでした。
以後、気を付けます」
仕事の時のしっかりとした口調でそれだけ言うと、部屋を去る。
俺はちょっとは仲良くなっていたと思っていただけに
自分でもびっくりするくらいショックを受けていた。
「…何かわるいことしたかな」
『あいつの言うことなんか気にしなくていいですよ』
因みにエルがあいつと呼ぶのはハーレティクスとあのメイドさんだけである。
『…問題があるとすれば、やはりあれですかね』
本気で落ち込んでる俺を気遣ってかエルが真面目に意見を述べてくれる。
こいつほんと優しいよな。
『もしかすると、シュン様が実力を隠していたと思われているのかもしれません』
「隠していたって…俺はちゃんと言ってたつもりだったんだがな」
『向こうの想定を超えていたのでしょう。
まぁシュン様とわたくしが強すぎたのですね』
強いのほぼお前だけで俺むしろ弱いけどな。
エルの意見を元に一度落ち着いて考えてみる。
まず、イズモとレリィはイワミたちを警戒させないために
ハーレティクスから逃げ延びたと伝えていた。
次に以前にいた人間の話だ。
あの人間は狂乱して襲い掛かったという。
そこから人間は悪いやつというイメージが残った。
そして今朝行ったステータス確認で、俺はゴミだった。
ゴミ以外に表現しようがない程にゴミだった。
最後にその後であった魔獣を倒して、
なんか褒められまくって今に至る…
「うーん、考えようによってはあるな…
敵対してる人間が様子を探るために弱者のふりをして忍び込んだ、とか」
『イワミさんやあのメイドは、イズモさんやレリィさんを
侵入のために利用したと受け取っている可能性もあります』
「あー、なるほど。そら怒るわな…」
原因はわかったが解決の方法がわからない。
このままで過ごすにはあまりに辛すぎる。
別にロバートさんやグループの皆のように、
褒められたいわけじゃない。
ただ、敵になるのだけは避けたい。
ちょろさに定評のある俺は、あのしっかりして優秀なイワミと
結構言いたい放題言ってくるうさ耳メイドさんを
どうも結構好きになっていたらしい。




