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6.5.アモーア・アビーマ

遠くの岩陰からシュンたちを覗く三人の姿があった。

いずれもハーピーであり、果実や野草を収穫するための籠を脚で掴んでいる。


「まさか、あんなにあっさり倒すなんて…」

「やっぱりレオノール嬢を助けたのは本当なんだって」


彼女たちはシュンが魔獣を簡単に退治した事に対して驚きを隠せない。

あそこまでの働きは彼女たちは勿論、

町で戦闘を生業とする者でも難しいだろう。


「けどさ、おかしくない?」

「おうどした?」


本来ならば誰かが魔獣に襲われているとなれば、

腕に自信のある者ならば助けに入るし、

そうでないならば町に助けを呼ぶものである。

これまでずっとそうであるし、きっとこれからもそうだ。


「だってあたしらがけしかけた魔獣結構強そうだったじゃん」

「そうね。まぁまぁ強いんじゃないかしら」

「うん、普通なら簡単に倒せそうにないレベルでしょ?

 けどあの人間はこうもあっさり倒した…」

「やっぱりレオノール嬢助けたのあの人間なんだって」


この三人がどうもシュンとロバートを襲った魔獣を誘導したらしい。

彼女たちは会話を続ける。


「ならさ、あんな雑用してるのおかしくない?

 普通だったら狩猟のグループと一緒にいるはずだって」

「なるほど…つまり、どういうこと?」

「レオノール嬢助けたあの人間にも何か事情があるんだよー」


ここでシュンが魔獣を倒せた事について疑問を持っているハーピーをA、

それと話してはいるが理解の及んでいない者をB、

壊れたテープレコーダーみたいな奴をCとしよう。


「事情があるかは知らないけど、

 つまりそれって自分が強いの隠してたって事になるじゃん?

 ということは何か隠さないといけない理由がある…」

「…つまり?」

「レオノール嬢を助けた事と何か関係あるのかな」


Cは再度繰り返したが既に誰も聞いていない。

本来、彼女たちはレオノール…レリィをシュン、つまり人間が

助けたという事実に対して疑問を抱き行動を起こした。


そもそも町に人間がいるという事実を知る者は少ないが、

住民たちの多くは人間に対しよい印象を持っていない。

持つ機会がなかったというのが正しいだろうか。


かつてここに来た唯一の人間がとった行動だけが彼女たちの全てだ。


「そこまではわかんないかな。詳しい人に聞くしか」

「詳しい人?」

「ほら丁度きたよ」


AがBとCの後ろを指さす。

そこにはいつもと少し違った雰囲気の…

いや、完全に怒っているレリィがいた。


「ねぇきみたち何してるのかな」


三人はびくりと震えあがる。

普段の明るく元気な彼女からは想像もできない

平坦で冷たい声はあまりに恐ろしかった。


「な、なにって…ええっと…」

「荷台が魔獣に襲われてたけど…

 大丈夫そうだったので、見てました。はい」


まともに言葉の出ないBとは対照的に

Aはスラスラとそれらしい言葉を並べる。


レオノールなら信じてくれるかもしれない、

そんな一抹の希望を抱いて…


「ふーん、そっかー」


やったか!?

絶望に染まるAの心中に微かな希望が宿る。

が、


「なんでそんなウソつくの?」


完全に墓穴だった。最初から謝っておけばよかった。

何をされるかはわからないが

とんでもない目に遭う事だけは確かだ。


「あの魔獣…興奮すると、

 ずっとまっすぐに行く性質があるんだってね。

 それを挑発してシュンくんのところにぶつけた…って感じかな」

「な、なにを証拠にそんな…」

「いやだってぼく見てたし」

「は?」


あまりに意外な一言にBは呆気にとられる。

察しのいいAは何かを掴みかけているがまだわからない。


「勘違いしないでね。ぼくが怒ってるのは

 別にシュンくんを危険に晒したからじゃないんだ…」


鳥の少女はゆっくりと語る。

まるで自分の思いを確かめるかのように。


「もしかしたら人間ってだけで悪く見られてるシュンくんに

 チャンスを与えるためにけしかけたのかもしれない」

「ぼくも始めはシュンくんをそう見てたから…

 みんなの目が変わる機会をくれるなら、凄くありがたいと思う。

 それなら次からもっと安全なものにしてね? で済んだんだよ」


その言葉はシュンならばあの程度造作もない、

そういう確信すら感じさせる。


「けど、ちがった」


「悪意をもって、シュンくんを傷つけようとした。

 それが許せない」


あぁなるほど、とAは確信する。

これはつまりそういうあれなのだ。


けれど、とレリィの雰囲気が穏やかなものに変わる。


「シュンくんは無事みたいだし、

 これでみんなもシュンくんをちょとよく思うかもしれないから…

 今回だけは、特別だからね?」


許された。助かったのだ。

三人は心の底から安堵し、去るレリィを見送る。


「いやぁ、しかし…」


Aはレリィの言動から、自分の推察が正しいと確信していた。

本来なら少し甘酸っぱい、ほろ苦い経験で終わるものなのだが…


「ありゃ人間大変だわ…」


レリィよりは少しだけ人生経験が豊富な彼女は

この先起こりそうな波乱を予感し、そう呟くのだった。

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