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6.森林の魔獣

俺は弓を選んだはずなんだがな。

目の前には何かのカタパルトのような物体が置かれていた。

金属らしいが光沢は塗りつぶされ、

無骨な反射が自らを兵器と名乗っているようだ。


『分類上は弓です。厳密には弩に属しますが』

「うーん、まぁならいいか」


よいしょ、っと。結構重い。

適当に銃っぽく持ってみたがこれで合ってるのかな。


『少し腋を閉じ、左手で底ではなく

 左側の取っ手を起き上がらせて持つと安定すると思います』


言われた通り、側面にあった取っ手を掴む。

ちょっと持ちやすくなった気がする。


『後は目標が来ましたらお手元のトリガーを引けば全自動で勝ちます』


ここで何とかが射出されますとかダメージを与えますじゃなくて

勝ちますって断言する辺りが実にエルらしい。


そうこうしているうちに木をなぎ倒す音はすぐそこまで来ていた。

魔獣の全貌が明らかになる。


「おぉ…でかいな」


第一印象はそれだった。

サイとイノシシを組み合わせて巨大化させ、

その重量を象の体躯で支えているような姿である。

固い毛の生えた顔からは敵意に満ちた目をこちらに向けている。


しかしこれはかなり早いぞ。

俺はここで棒立ちしていたは轢殺待ったなしと思い

転がるように横へ回避する。


巨大イノシシは素早く横へ転換できないようで、

すぐ後ろにあった木をへし折る。


「ここで一発!」


弓を引く…いや、トリガーを押す。

するとガシュン! という俺の持つ弓のイメージからかけ離れた音がして

何か光の線が先端から飛び出る。


ピィィィィィィユゥゥゥゥゥ


『F4KL-83 後期粒子小銃ルイジアナ。こちらの威力処理が適用されます』


今小銃って言わなかったか?

そんな事を考える間もなく光の線は巨大イノシシの足を貫く。


グゴオオオオオオオ!!


痛みで大きく悶え、鳴き声を上げる。

胴体を狙ったつもりだったんだが俺のクソザコエイムは余裕で外した。


『こちらの武器は誘導機能がついておりません。

 手ぶれ補正機能を使いますか?』

「兵器にそんなカメラみたいな機能ついてるのか…」


いやしかしそれは合理的な気もする。

誘導がない以上、手動で狙いを定めなければいけないわけだが

俺みたいなド素人にやらせると簡単にブレブレになってしまう。

そもそも最初の一発が当たったのがラッキーみたいなものだ。


俺はエルの提案を快諾した。


「生き物を苦しめて楽しむ趣味はないんだが。

 どこを狙えばいいと思う?」

『魔獣と定義されている存在は他の生物とすこし構造が異なるようですが…

 えーっと。マナの中枢を拡散させれば問題なくくたばりますね』


苦しみながらもこちらに向き直ろうとするイノシシを見ながら俺は聞く。

こういう姿はあんまり見たくない。

やはり野生の動物というのは元気に走り回る姿か食卓に並ぶ姿かの二択に限る。

…若干サイコパスっぽな。


「つまり、どこ?」

『頭にぶっ刺せば死ぬかと』

「なるほど、わかりやすい」


回答は単純明快なほどいい。

難しく語られてもわからんからな。

俺は弓という体の小銃(手ぶれ補正つき)でイノシシの頭部を狙い撃つ。


ビィィィィイイイイユゥゥゥゥン!


それは見事に眉間に命中し、イノシシは叫び声も上げず倒れる。

俺は恐る恐るそれに近づく。

…まだその巨体は呼吸をしているように見えるのだが。


「…本当に倒したのか?」

『はい。現在は各部を循環するマナが状態を維持していますが、

 その中枢が拡散、消滅した以上あと数分で完全に停止します』


エルがそう言うなら間違いないのだろう。

俺は緊張が解けたのかその場にへたり込んでしまう。


「なぁエル。こいつ一匹でどれくらい使い道がある?」

『そうですね…。毛は熱と水で加工を繰り返せば羊毛に似た役割を持てます。

 肉は勿論、恐らくは表皮も食用になりますね。

 他も骨は肥料となり得ますが…現状では難しいでしょう』


他にも内臓、角、爪、目に至るまでエルが淡々と用途を羅列していく。

俺はここまで使い果たせる生き物を豚くらいしか知らない。

それが野生に存在しているとは、まさに恵みだ。


ふとロバートさんが隠れた方を向くと、

彼がさっきの俺のように恐る恐る近づいてきていた。


「それは…、もしや君がやったのかい?」

「あ、はい。…ダメでしたか?」


実は殺してはいけなかったか?

ロバートさんの様子を見て少し心配になる。

魔獣を倒せることで調子に乗ったツケがこんなところで…


「凄い、凄いよシュン! あの大きさの魔獣をたった一人で、

 しかもこんなに綺麗な状態で倒してしまうなんて!」


俺は興奮するロバートさんに抱擁され、そのまま抱き上げられてしまう。

彼は見た目に違わず結構筋肉質だった。


「本当なら助けを呼ぶために荷台を見捨てなければならなかったのだけど…

 君のおかげだ! 有難う、シュン!」

「ろ、ロバートさん、く、くるしい…」


彼の抱擁は力の加減をしらないのか、明らかに一つの技になっていた。

俺は落ち着いたロバートさんに下ろしてもらう。


「俺はただ…えーと、その…」


言い訳が見つからない。

ハーレティクスの時は生き残るため必死だったと言い張れた。

しかし今回はロバートさんと荷台のためであり、

それ以外の言い方が見つからない。


つまりロバートさんからのべた褒めを回避する手段がない。

そしてもう一つ。


「これは君の手柄だ。君が荷台と収穫物を守って、

 さらに魔獣を倒したんだ。私は君と共にいれて誇りに思う」

「は、はは…有難う、御座います」


ロバートさんの大きな手が俺の頭を少し乱暴に撫でる。

それが父親に褒められている気がして、少し…嬉しかった。

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