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4.翼の少女は天使だった

「いやぁしかし、ここまで何もないと…」


場所を変え、現在は居間にうさ耳メイドと俺の二人だけがいる。

このメイドさんは俺の就職活動の手伝いも任されていたようで、

本気で頭を悩ませているところは少し申し訳なく感じる。


いや俺は何も悪いことはしてないんだが。


「何か、こう…できること、ありません?」

「できることって言ってもなぁ」


藁を掴むような表情で彼女は俺に問いかける。

藁を掴めてすらいない俺はそれに答える事ができない。


『シュン様、シュン様。わたくしがお手伝いできる事は、

 シュン様ができる事と考えて宜しいのではないでしょうか』


エルが見かねて俺に助言をくれた。

そう考えるとできる事は増えてくる。

というか、殆どの事柄が可能になってしまう。


「人間さんにしか使えないならそれでもいいかな…

 じゃあ、どんな事ができるんですか?

「そうだな。魔獣は多分大体倒せると思う」


イワミの話を聞く限り、

ハーレティクスを超える力を持つ魔獣は存在しないようだ。

ならばそのハーレティクスすら倒せるエルと俺ならば、

まず魔獣は倒せると見て間違いないだろう。


しかしメイドさんは渋い顔。


「平均以下の筋力と魔力0で魔獣をねぇ…

 悪いけど、ちょっとにわかには信じがたいかなぁって」

「まぁ、そうだろうな」


ここであのハーレティクスを消し飛ばした銃器でも出せば信頼してくれるか?

しかしそれも違う気がする。

俺はあくまでここに受け入れて貰いに来たのであって、

力で恫喝しに来たわけではないのだ。


『シュン様ももっと強気になってよいのですよ?

 シュン様ならきっとなんだってできるのですから』

「あのさー。君さぁ。ちょっと甘やかしすぎじゃない?」

『は?』


エルから聞いた事もないようなトーンが飛んできた。

常に明るく陽気で、いざという時は冷静で、たまに少し怒るエルだが

あからさまに不快感を示したのは初めてだった。


「いやだってさ。その人間さんに

 あんまり重荷押し付けるのもどーかと思うよ」

『シュン様がなされると決めた事は必ずなされるのです。

 わたくしはその自由の幅を狭めたくはないだけです』

「自由っていうのも聞こえはいいけどさぁ。

 やっぱり身の丈にあった生き方ってのがあると思わない?」

『あなたはシュン様の何を知っているのですか』

「わたしは人間さんのステータスしか知らないけど、

 それはあなたも似たようなものでしょ?」


やばい。これよくわからないけど本気で喧嘩している気がする。

エルが完全に怒っている。

メイドさんもかなりキている。


俺はそこそこエルの性格がわかってきているため、

次の台詞がなんとなく予想できた。


『シュン様、こいつぶっ飛ばしません?』


かつてハーレティクスと対決した時と同じような…

いや、それより怒りの籠った口調で聞いてきた。


「ふーん。やれるものならやってみたらいいんじゃないですかぁ?

 悪いですがわたし、そこそこ強いですよ」


メイドさんも眼鏡に手をかける。

実は眼鏡が精神的なスイッチであり、

それを外すと狂暴な性格に豹変するとかじゃないだろうな?


流石に俺から手を出す事は絶対にない。

しかし、メイドさんがもし襲ってきたならば反撃せざるを得ないだろう。

その際エルがメイドさんをミンチにしかねないような

凶悪極まりない武器ばかりピックアップしたりしたなら後はもう最悪だ。


何か場を和ませる言葉を、でなければここだけでも切り抜ける手段を…

かつてない程に苦悩する俺を助けたのは、


「シュンくーん! おはよう!」


天使だった。


ドアをバーンと開けながらレリィが俺に声をかける。

その小さい体と大きな翼の隅から隅まで愛しく思える。

天使だ。神の使いはここにいた。


「ほんとは朝一番に来たかったんだけど、

 昨日の今日で親がすんなり出してくれなくて…」

「そうか、大変だったな。まぁ、こっちこい」


俺にそう言われるとレリィは嬉しそうに隣に座る。

無償にその小さい頭を撫でたくなった。

撫でるか? 怒られないかな。まぁいい撫でよう。


俺は彼女の短髪を優しく撫でた。


「わぁ、なに?」

「嫌か?」

「ううん、そうじゃないけど…ちょっとびっくりしただけ」


もっと撫でてやるとレリィは気持ちよさそうに目を細める。

いい感じに空気が変わった。俺は勝利を確信した。


「そういえばシュンくん、ステータスを見て貰ったんだよね。

 どうだったの?」


お前をそれを聞くのか。

俺は包み隠さずゴミでしたという事を伝える。


「そっかぁ…。でも大丈夫だよ!

 いざとなったらぼくが養ってあげるよ!」


それさっきそこのメイドさんにも提案されたんだよなぁ。

俺はなるべくそれは回避したいんだが…


「流石にそれは避けたいかな…

 自立したいのもあるが、やっぱ人間のイメージを少しでも変えたい」


最終的にはそこに終着する。

物置で話した女性は辛い現実の中生きていた。

俺だけが逃げるわけにはいかない。


「あ、そうだ! それじゃあちょうどいいお仕事があるよ!」

「本当か、レリィ?」

「うん、ちょっとぼくがいるグループに欠員がでてね。

 難しい仕事じゃないから大丈夫だよ!」

「そうか、お前は本当にいい奴だ…天使だよ…」


俺は感極まってレリィをつい抱きしめてしまう。

その小柄な体はすっぽりと俺の体に収まった。


「しゅ、シュンくん…! はわわ…」


暑かったのか、彼女は可愛い声を出してのぼせてしまった。

彼女のおかげで窮地を脱することができたし、

またとりあえずの仕事は見つかった。


しかし一つ新たに懸念事項ができてしまったのも事実だ。

明らかにこのメイドさんとエルは相性が悪い。

できれば仲良くやってほしいものだが…

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