3.ステータスチェック
「こちらが今回人間さんのステータスを見て頂く、
カーラ先生です。失礼のないようにね?」
占術の先生として紹介された相手は、不思議な女性だった。
黒いローブを纏い、様々な石の装飾をつけている。
更に大きな杖も装備し、まさに魔法使いといった風貌である。
あと、蛇だった。
「初めまして、人間の方。わしはカーラ・クア・フルセ。
占い師の真似事なんかをやっている」
ローブの下からは蛇の尾が見え、それは部屋の隅まで続いている。
また、喋るごとにチロチロと二股に分かれた下が見え隠れする。
「質問とかしても、大丈夫ですか」
「おういいぞ。わしに答えられる範囲ならばな」
「じゃあ早速…ステータス、っていうのはどういう物なんですか?」
そこのうさ耳メイドさんはステータスで職を決めるとだけ言っていた。
具体的に何を指すのか、それは知っておきたかった。
「そうさな。まずは魔力。これの保有量と伸びしろを見る。
これはかなり個人で差がある。わしの仕事も殆どこれだ」
もう一つ、と彼女は続ける。
「次に体力全般。瞬発力や持久力、あとは丈夫さみたいなのも見る。
とはいってもこれは種族によって大体決まっておる」
イズモがレリィはわらわ程頑丈ではない、と言っていたのを思い出す。
あれは種族の違いによるものもあったのだろうか。
「まぁ、例えばそっちのメイドだとな…
確か腕力をはじめ、体力が全般的に飛びぬけて…」
「カーラ先生ー? そろそろ始めませんかぁ?」
そこにいたうさ耳メイドさんのステータス紹介が始まったが、
残念ながら本人の手により中止してしまう。
イメージに反してとんでもないステータスだった気がするが…
仕方ないな、とカーラが俺と向き合う。
「わしも人間を視るのは初めてだ。宜しく頼むぞ」
「は、はい。お願いします」
彼女はこの異世界で会った中で最も大柄で、
まさに大人の女性と形容できる容姿だった。
それだけに、少しばかり余計に緊張する。
「これから創造主が与えた祝福により、あなたの素養を見出す。
まぁ一応これが全てというわけではないから
一生をこれに賭けるという事はせんでくれ」
予防線じみた発言をするカーラ。
なんとなく健康食品や体操にありがちな注意書きを思い出す。
「最終的に生き方を決めるのは自分自身だ。
それだけは忘れぬよう」
その後小さく「ステータスに従った生き方が楽といえば楽だが」
と呟いたのを俺は聞き逃さない。
「それじゃあ始めるぞ。チェック・ステータス」
カーラが俺の額に手をかざす。
そして魔法の名前を唱えると同時に緑色の光が溢れる。
稀代の才能とか、無尽蔵の魔力とか、
そういうものを期待していなかったと言えばウソになる。
けどそういうのがあっても、いいんじゃあないか?
「ふむふむ、なるほど…」
まるで脳をそのまま読み取られているような、不思議な感覚を抱く。
痛みや辛さはないがなんとなくくすぐったい。
「ほうほう、それがこうなって…なるほどなるほど…
……うわっ」
うわっが出たよ。
明らかにドン引きしている声だ。
俺のステータスに何があったのかとても気になる。
きっといいことじゃないのは間違いない。
「えぇ…そんな…うわ、ひどい……」
更にひどいまで出ました。
どんな惨状が繰り広げられているというのか。
あまりの反応に泣きそうになる。
「うーん、何かないか…何か…あー……
……。強く生きろよ」
そして遂に最強呪文、強く生きろよがでてしまう。
これは(個人的には)本気でどうしようもない相手に
「俺は知らんけど勝手にがんばれよ」という意味を暗に伝える
一種の手遅れ宣告のようなものなのだ。
「………」
遂に、黙った。
耐えがたい静寂のまま、時間だけが過ぎていく。
ふとうさ耳メイドさんの方を見るがすぐに目を逸らされた。
気まずい。
そうしているうちに、ふぅ。とカーラが息をつく。
「まぁ…あぁ。いちおうは完了したぞ」
可哀想な生き物を見るような目でこっち見るのやめてくんない?
あと小さくすまない…って呟くのも微妙につらい。
カーラは板にスラスラと何かを描き始める。
どうやらそれはアルファベットと数字のようだが…
HP 38
STR 13
CON 15
DEX 10
MP 0
何となく単語の意味はわかるがそもそも意味が同じかはわからない。
一応聞いてみた方がいいか。
「これって、それぞれどういう意味なんだ?」
「あぁ。HPは体力、どれくらいの傷を受ければ死ぬかという指標だ。
STRは筋力、いわゆる力持ちかどうかを判断できる。
CONは治癒力、DEXは俊敏性や瞬発力なんかを見ている」
なるほど。なんだかRPGみたいだな。
しかしこの数値群が高いのか低いのかよくわからない。
「そして最後のMPじゃが…。これは魔法を使うために必要な魔力でな。
これが0という事は…魔法が使えん」
断言されてしまった。
魔法使いになるという夢は第一歩で足が爆発して崩れさった…
更に、
「それ以外のステータスも…体力がちょっとあるくらいで、
他はちょっと…うん……」
………。
再び沈黙。
「し、しかし案ずるではないぞ。人間よ。
何もステータスだけが全てではない。知恵や勇気は時にそれすら凌駕する」
カーラは無理にでも俺を慰めてくれる。
しかし優しさは時には痛みにもなる事を俺はたった今知った。
「最悪、イズモ様に養ってもらえばよいのでは?
あとレオノールちゃん。あの子もなかなかすごいですよ」
「この年から誰かのヒモになる選択は取りたくない」
「まぁ、それもそうですね」
このうさ耳メイドはほんとに好き勝手言ってくれるな。
しかしそれはそれでなんだか悲しくなるな。
『安心してくださいシュン様。
シュン様にはシュン様にしかできない事が必ずあります』
エルまで元気づけてくれる。
本当に情けないなぁ、俺。
その時、カーラは不思議そうに俺が取り出したエルを見る。
「なんだ、それは…歪すぎる。何故そんなものが存在している…?」
カーラは小声で何かぶつぶつと呟いている。
それは聞き取れないが、彼女が驚愕と考察を繰り返している様は見てわかる。
するとカーラは立ち上がった。
いや立ち上がったというよりは蛇の脚で体を持ち上げたというのが正しいか。
「少し調べたい事ができた。悪いがここで失礼させてもらうよ」
「あ、でしたらお出口まで案内しますね」
あ、そうそうと去り際にカーラは振り向く。
「その…なんだ、板のような道具。
それはとても重要なものだ。大切にしたまえ」
それを言われるのは二回目だ。
言われなくとも大切にするさ、何せエルは大事な相棒だからな。




