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1.兎の少女は属性過多

ピピピ、ピピピ、…


「ん、朝か…」


アラームの音で目が覚める。

本当ならここから更に激しく鳴るが、それには勝利した。


俺は不思議な感触の毛布から上半身だけ起こし、

枕元に置いていたスマホを手に取る。


『おはよう御座います、シュン様』

「あぁ、おはよう」


エルは笑顔(の顔文字)で俺を迎えてくれた。

今日はちゃんとした寝具で眠れたおかげか、気分爽快だ。

こうして俺の一日が始まる。



「しかしまさか本当にあの魚を食べる事になるとはな」


昨晩の食事を思い出す。

イズモの言った通り、あの魚は水道を管理していた人たちに回収され、

そのまま解体されて町の人たちの食料となったらしい。


その一部がここまでやってきた。


「まぁ、普通にうまかったな。味が薄かったけど」

『調味料の類が乏しかったので、そのせいかと』


なるほど、そういう訳だったのか。

塩とか砂糖とか、そういったものが貴重なのかあるいは全くないらしい。


「あと野菜も山菜や果物ばかりだったな。

 …もしかして栽培とか育成とか、そういう設備がないのか?」


話を聞く限りどうも狩猟採集により生活しているように思える。

その理由にはやはり魔獣の存在が大きいのだろうか。


俺は置かれていた服に着替えながらエルと話し合う。

昨日まで来ていた制服は結構ボロボロになっていたので洗って貰う事にした。


『シュン様、お似合いですよ』

「お前俺が何着てもそう言いそうだな」

『場合によってはニュアンスが変わる事も御座います』


着ていた制服のせいで黒が好きとでも思われたのか、

配られた服もどこか黒っぽかった。

スラリとしてシルエットのせいで俺の脆弱な体つきが露出してしまう。


「この服も錦とかじゃなくて、魔獣から刈り取った素材で作ったんだろうな」

『その昔、虫の腸を数万匹分取り出しマフラーを作る文化があったそうですよ』

「なんでそれをこのタイミングで言うの?」


エルはこういういたずらっぽいところがある。

そこが余計人間らしくて、ただのスマホであると思えない要因の一つだ。

俺はいたずらのお礼にエルの顔文字を素早く上にスワイプして、

そのままエルを画面の奥に投げ飛ばす。


エルの顔文字はくらくらと頭にヒヨコを浮かべて、

今更漫画でも見ないような表現で気絶していた。


その時、扉がガチャリと開く。


「おはようございます、朝ですよー」


入ってきたのはメイドさんだった。

いや、正しくはうさ耳メイドさんだった。


「あ、もう着替えてらしたのですね。人間さん早起きです」


テンポの軽い口調。

更に胸をアピールするような服装のせいで少し色っぽい。

そこにこの世界では始めて見た眼鏡も合わさってかなりの属性過多を起こしている。


「属性で胸やけが起きそうになるな」

『シュン様はあぁいうのが好みなのですか?』

「嫌いな男はいないだろうよ」


そう言うとエルの顔文字に兎の耳が追加された。

更に兎のっぽい前足や胴体が追加され、背景も草原みたいになる。

違う、そうじゃない。


「ここにはわたしと人間さんしかいませんよね。

 どなたとお話しているのでしょう?」

「あぁ、こいつだよ」


俺は完全な野兎と化したエルを見せる。

うさ耳メイドさんは物珍しそうにまじまじとそれを見る。


『ぴょん』

「わ、音が出ましたよ」

「お前もうそれやめていいぞ」

『あ、そうですか』


未だに兎を貫くエルの声にメイドさんが驚く。

しかしそれでは話が進まないのでいつものエルに戻そう。

あと兎はぴょんとは鳴かない。キーとかそんな感じで鳴く。


『初めまして。わたくしはSL/091、改めエルと申します。

 シュン様の忠実なスマホをやっております、以後お見知りおきを』

「わぁ、しゃべりましたよ。すごいですね」


スマホという未知の言語が出現しても気にしないその姿勢いいね。

そういえばエルの自己紹介を見たのは初めてだな。

イズモとレリィには俺が気を失っている間に済ませていたようだし。


「何か用があってここに来たんじゃないか?」

「はい。本来なら人間さんを起こしてお着換えの手伝いをするつもりでしたが

 それも済んでいるようなので、やる事がなくなった感じですねー」


うさ耳メイドさんに着替えさせて貰うチャンスを逃してしまったのか…

実に残念だ。しかしそれを声に出すと

またエルが野生に戻りそうなので黙っておこう。


「じゃあ、これからの予定とか教えてくれないか?」

「承知しました。少し失礼して…」


そう言うとメイドさんは懐から何か板のようなものを取り出した。

内側には液状の物体が綺麗な円形に広がっており、

その中心から広がるように表面に円が彫ってある。


「あと半刻ほどで朝食の準備ができますので、

 その時になりましたら改めてお呼びしますね」


そう言うとメイドさんはそそくさと帰って行った。


どうやらあの板は時計らしい。

あの円の大きさにより時刻を知るのだろうか。


「凄いな…、ちゃんと手持ちの時計まであるのか」

『わたくしも時計機能はありますが?

 タイマーもセットできますよ』

「なんで対抗心燃やしてるんだよお前の方が百億倍有能だよ」


円時計(と勝手に名付けた)より自分が優れているとアピールするエル。

そんな事はとっくの昔にわかっている。

この世界にお前より優れた奴なんているはずがないさ。


しかしこの異世界にある道具や文化には興味が出てくる。

俺はここに来たときあれだけ戦々恐々としていた事も忘れて

異世界の事を知りたくて子供のようにわくわくしていたのだった。

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