17.ゼロから始める就職活動
「いつ頃からいて、いつから私たちに危害を加えて来たのかもわかりません。
…何せ、あれと遭遇した者の殆どは生きて帰ってきていませんから」
ごくり、と唾を飲み込む。
あれは異世界にとって、それ程の脅威だったのだ。
もし俺がいなければ二人はどうなっていたか…想像したくはない。
「私たちもその存在を認識してから、いくつもの対策を考えました。
ある者は魔法を極め、ある者は策を講じ…」
それでも、とイワミは悲しそうに
「ハーレティクスには何も通じませんでした。
あらゆる魔法は無効化され、どんな罠も突破される…
私たちの知る世界の理から逸脱した存在なのです」
逸脱した存在。
その言葉を聞いて俺はエルが思い浮かべた。
「ですから、そんなハーレティクスと出会いながらも
生還した事は奇跡のようなものなのです。
二人を助けて頂き、本当に有難う」
再び彼女から感謝の意を述べられる。
そこまで話を聞いて、なんとなく表現が控え目な事に気づく。
厳密には、ハーレティクスを倒した、ではなく
ハーレティクスから助けて貰った、というところだ。
その疑問はイズモの行動から糸口が見つかった。
「その通りじゃ。あのハーレティクスからシュンは見事に逃げ果せた。
わらわ達をかばいながら、とんでもない回避っぷりを見せたのじゃ。
それこそ、あいつが飽きて去っていくほどにな」
彼女の眼はわらわに合わせろと言っている。
なるほど、つまりそういう事か
「あぁ、はい。まぁ運が良かったとしか言えませんが…」
ハーレティクスから逃げ切る事ができた、ならば過去にも事例はあるだろう。
その存在が曖昧であれ言い伝えられている事がその証拠だ。
しかしそれを倒したともなると話は別である。
規格外の存在を倒すより常識外れの存在、そう扱われてしまうのは想像に難くない。
それでは間違いなく恐れられ、警戒されてしまう。
俺がここに受け入れて貰うためにはそれは避けなければならない。
「大けがをしたぼくを治してくれたりしたんだよ!」
レリィが何故か得意げに言う。
まぁそれは言って大丈夫だろうな。
「イズモ、レリィ」
イワミが鋭い視線を二人に浴びせながら低い声で名前を呼ぶ。
それを聞いて二人はピシっと背筋を正す。
「先ほども言いましたが…。この方のおかげでなんとか生き延びたものの、
あなた達は本来ならば命を失っていたはずなのです。
これからは子供たちだけで魔獣を狩りにでかけるような真似は控えなさい」
なるほど、それで二人だけで町の外に出ていたのか。
一狩り行こうぜ! のノリで軽く出かける
イズモとレリィが容易に想像できる。
「じゃ、じゃが母上よ…」
「残された人々の悲しみは、いつまで経っても癒える事はないのですよ」
イズモは何か言い返そうとしたが、
イワミのその悲痛な訴えで完全に沈黙する。
その間、俺は胸ポケットに入っている
もう一つの逸脱した存在について考えていた。
ハーレティクスよりも強大で、
意思があるだけにそれより厄介かもしれない。
「お前は、何なんだ?」
小さい声でエルに問いかける。
そうすると、彼女はいつもの調子で
『わたくしは、シュン様に付き従うものです』
こう返すのだ。
答えたくないのか、答えられないのか。
そもそも答えたとして俺が全く理解できない可能性は十二分にある。
しかし、俺はすでに決意していた。
エルの正体をきっと暴いて見せるからな、と。
彼女を信頼しているからこそ、俺は知らなくてはならない。
そんな気がするのだ。
さて、とイワミが話を転換する。
「シュン、あなたは暫くはこの屋敷に滞在してもらいます。
勝手もわからないでしょうし、その間にこの町について知ってください」
相手の気持ちになってその配慮ができる人ってほんと貴重だよね。
俺も就職できるなら彼女のような上司の下に就きたい。
…まぁもう就職活動する事は未来永劫ないと思うけどさ。
「それから…少し先の話をしましょう。
あなたには、何かしらの職務に就いていただきます」
まさか本当に就職できそうなんだが。
受験を控えてる同級生たちから一歩リードだ!
…その同級生からしたら俺は異世界追放された重罪人なんだよなぁ。
「魔獣の討伐に魔法の研究、他には物資の管理や施設運営など
私たちが必要としている人材は様々です。
そこで高い評価を得る事ができれば、あなたも自然と受け入れられるでしょう」
受け入れられるという言葉を受けて、
俺は物置で話したあの女性の姿を思い浮かべた。
「その斡旋くらいは、私に手伝わせてもらいますよ」
あの女性も精一杯やっているはずなのだ。
しかしその言葉から、受け入れられるとは程遠い現状が推察できる。
俺もそうなるのか? それとも…
「色々して頂いて有難う御座います、俺なんかのために…」
「娘たちの恩人ですから。それくらいはしないとむしろ私が恩知らずとなります。
どうか私のために遠慮なさらないでください」
この人、なんというか人の使い方上手いと思うよ。
そういわれると俺もこれ以上何も言えない。
繰り返し有難う御座いますと礼を述べると、イワミの優しい微笑みがそこにあった。
やはりイズモの親なのだろう、心を浄化するような笑顔までそっくりだ。
「この町で役に立てるよう、俺も努力しますので…宜しく、お願いします」
こうして俺の異世界追放は新たな段階に入った。
つまりは、みなに受け入れて貰えるよう頑張るという形の。




