10.異世界の町へ…2
イズモの提案に乗る形で、俺とレリィは支度を整える。
支度といっても借りた小屋の片づけと手荷物の整理くらいだが。
更に持たされたリュックもあの怪物と戦っている間にどっかいったらしく、
俺の荷物は本当にこのスマホしかないのだ。
俺は小屋を一通り綺麗にすると、レリィと共に小屋を出た。
「じゃあ、レリィよ。シュンを持って飛んで」
「えっ」
「うん、わかったよ。任せて!」
「えぇ」
レリィが翼を一度羽ばたかせるだけで彼女はふわりと浮かぶ。
そのまま俺の両肩を鷹のような両足でつかむ。
「ちょ、ちょっと待てって。俺は普通に歩くものとばかり…」
『それかなり時間かかりますよ。
体力的にも時間的にもこれが一番効率的です』
エルから実に合理的な反論が飛んでくる。
しかし気絶中は仕方ないとして、意識のある状態で
女の子に運ばれるのは少し忍びない。
「じゃあエル、さっきの武器みたいに何か移動できるもの出せないか?」
『ありましますが…周囲一帯が炎に包まれたり、
極度の重力崩壊を起こして人の住めない地になりますが宜しいですか?』
災害規模の単語がつらつらと並べられる。
こいつは何を出そうとしているんだ…
そんな物を使うと下手をするとこれから行く町まで吹き飛ばしかねない。
こうなるともう俺は腹をくくるしかなかった。
「あ、一応言っておくけど…なるべく、上は見ないでね?
ちょっと恥ずかしいから…」
「お、おう。わかった」
俺を掴んだレリィが恥ずかしそうに言う。
彼女のあまりに露出の多い服装から
異世界には羞恥心という概念がない可能性すら考えたが、
この素振りを見る限りそういうわけでもないらしい。
しかし恥ずかしがる少女に運ばれる俺か…
多分今までの人生で一番情けない瞬間である。
俺たちは町に向けて動き出した。
誰にも見つからない入口とやらを知るイズモが地上から先行し、
俺をつかんだレリィが空から後を追う。
エルは万が一イズモを見失った場合のフォローと周囲警戒だ。
何と俺だけなにもしていない。
これが一番効率がよいと言ってもなんというか情けないな。
「俺だけ何もせず運ばれてるだけなの悲しいな…」
『ご安心ください。万が一この状態で敵対生物と遭遇した場合は
シュン様の一撃で即座に葬り去る手筈となっております』
移動砲台か何かか俺は。
…いや、けどこれ普通に強いんじゃないか?
俺の移動が遅かったり地上でしか動けない点をレリィの飛行で解決し、
更に立体的な動きが可能になる事で多角的な攻撃が可能に…
まぁそんなことも別にもう戦わなければする必要もないのだが。
と、そこでふと左手に他と違う風景が見える。
樹木の背丈が高いせいで気づくのが遅れたが、
あれが二人の言っていた町らしい。
「あれが、町なのか?」
「そうだよ。あれがぼくらの町さ!」
それは俺の予想を遥かに超えた姿であった。
まず目につくのは数mもある石の壁である。
どうやら町全体をぐるりと覆っているようで、
どこまで続いているのかここからでは見えない。
更に町の中では塔のような建物や鍛冶を行っているのか煙を登らせる施設、
更には広場らしき場所の中央に噴水も確認できる。
「すごいな…、特にあの壁。よくあそこまで積み上げたもんだ」
「ぼくらのご先祖様が作ったんだよ。
あれがなかったらぼくらももっと大変だったと思う」
壁というと、やはり外敵から町を守る手段のように思える。
しかし俺の知る敵…つまり、先日遭遇したあの怪物。
あいつならあの程度は時間稼ぎにすらならないのではないか。
あるいは特殊な加工が施されていてとても頑丈だったりするのかな。
『レリィさん、そろそろ高度を下げましょう』
「そうだね。見つかって迎えに来られても大変だし」
そういうとレリィはゆっくりと森の中に降り、紛れていく。
丁度下ではイズモが手を振って合図を送っていた。
「目的地はもうすぐそこじゃ」
イズモが進路を指さす。その先は町の方向と少しずれている。
数分ほど歩くと、大きな石碑の前に出た。
「なんだこれ…」
それは不思議な石碑だった。
長々と文章が書いてあるが、当然ながら俺には読めない。
しかし、これが何か大切な意味を持つ気がしてならない。
「なぁレリィ。これ読めるか?」
「なーに? うーん、見た事ないかなぁ」
どうやら異世界で使われている言語というわけでもないらしい。
それだけじゃなくこの石碑そのものが大きく欠けているので、
たとえ読めたとしても完全に解読することは難しそうだ。
『シュン様、シュン様』
「お、あぁすまん。何だエル?」
突如エルに声をかけられ石碑に吸い寄せられた心がもとに戻る。
『この石碑について考察するのは少し情報が不足しているものと思われます。
後日、様々な資料を得た上で再び来てはいかがでしょうか』
確かにエルの言う通りだ。
現状では何が描いてるのかさっぱりわからん。
まだフラグが足りなかったんだな。
「じゃあ今度またこれについては考えるか」
『はい。また来ましょう…必ず』
「つい最近見つけたばかりでのう。他には誰もしらんはずじゃ」
一方、イズモは碑石の側面に積まれた石を一つ一つ下ろしていた。
段々と中にある空洞の姿が見えてくる。
それはかなり大きいようで、
声を出してみると奥まで響く様子がわかる。
「ここから入って町の中に出る!
そっからはまぁなんとかなるじゃろ」
森探検の次は洞窟探検か。
別に望んでもないのに冒険記としての充実度は増していく一方だ。




