9.異世界の町へ…1
「そういえば俺はどのくらい眠ってた?
まだ明るいからそんなに時間は経ってないとは思うけど…」
『いえ、丸一晩眠っておられました。それだけ消耗していたものと思われます』
丸一晩!? なるほどそれならこの倦怠感もうなずける…
しかしまさか異世界での第一泊を気絶して過ごす事になるとは。
まぁ生きてるだけ儲けものか。
それより、俺が寝てる間の事も気になる。
「じゃあ夜の間とか危なかったんじゃないか?
またあいつやその仲間が来るかもしれないし…」
あいつとはつまりあの白い怪物だ。
前回はエルのおかげで勝てたが、再び遭遇すればどうなるかわからない。
それこそ不意打ちでいきなり小屋ごと吹き飛ばされたらおしまいだ。
『そちらも抜かりなく。わたくしが周囲一帯を常に監視し、
脅威がないことを確認しておりました』
ただ、とエルは続ける。
何か問題でもあったのだろうか。少しばかり心配になる。
『レリィさんは見張りをすると言い張って聞かず、
最後はイズモさんが無理やり寝かしつけました』
どうやらそれは無用だったようだ。
しかしレリィもまだ全快ではないだろうに…
イズモと…多分、俺のためにそこまでやろうとしていたのか。
なんていい子だろう。
「二人と…まぁ一応俺の容体はどうなんだ?」
『はい。レリィさんは裂傷・骨折・内臓損壊などの重症を負っておりましたが
シュン様の治療によってほぼ全快しております。
血液量に関しても治療に含まれておりますので問題ありません』
とんでもない単語がすらすらと出てくる。
そんな大変な事になっていたのか。治って本当によかった…
元気にイズモと話しているレリィを見る。
あの小柄な体でそんな傷を受けた事に対する無情さと、
回復した事に対する安心感で泣きそうになる。
『イズモさんですが、彼女はえー、なんといいますか。
人間より遥かに高い治癒能力と強靭な肉体を持っております』
「だろうな。俺だったら間違いなく動けん。むしろ死んでる」
イズモが受けた攻撃を思い出す。
幾何学模様による突進と爆発。あんなものを受けたら五体満足ではいられない。
それでも俺のところまで来てレリィを助けてくれと頼んできたのだ。
『本来ならばあの程度の傷もすぐに治ると思いますが、
今回は対象が魔力生命体を相手にするにしても過剰なレベルのアンチマギア作用と
高濃度のE種攻撃性因子による魔力崩壊が観測され…』
「うん。途中から全く何を言っているのかわからん」
しかし最初の一文からなんとなく言いたいことはわかる。
「つまり、だ。いつもならあんな傷くらいすぐ治るスーパーイズモが、
あの怪物に受けた傷は特別で、治りが遅くなっているってことでいいか?」
『その通りで御座います。流石シュン様、ご理解が早い』
それは凄まじい回復力だ。もはや再生とまで言ってもいい。
イズモはこれくらい平気と言っていたが、その自信はそこから来ているのだろう。
『最後にシュン様ですが、治療に消費した血液以外は問題ありません。
ただ、なるべく運動は控え、早急に栄養を摂ることが望まれます」
そういえばレリィを治した時に使ったグローブは俺の血を使ったんだったな。
身体中に広がる倦怠感はそのせいか。
『栄養に関しては問題ありません。
地中にはタンパク質が、地面にはビタミンと食物繊維があります』
「それさぁ、もしかして虫と雑草食べろって言ってない?」
『ダメですか?』
「ダメです」
それはもうちょっと切羽詰まってからにして欲しい。
『だとすると…やはり、
イズモ様と話していたプランを実行するしかないようですね』
「おうシュンよ、やる気になったようじゃな」
突然イズモが横から覗き込んでくる。
え、もしかしてみんなで俺に虫食べさせるつもりなの?
うーん、それ以外方法が本気でないなら頑張るかな…
「お主を、わらわの町に招待しよう!」
決意を固める俺に向かって、意外な提案がなされた。
町? こっちにもそんなものがあるのか?
しかし考えてみればおかしい事ではない。
イズモもレリィもちゃんと服を着ている。いやレリィはちゃんとじゃないな。
原始人のような裸体ではないのだ。きっとそれを作る文明がある。
文明があるなら、町だってあってもおかしくない。
そんな考察をしているところで、まず声を出したのはレリィだった。
「そ、そんな! 危ないよ、だってみんなは人間の事を…」
「俺ってそんなに嫌われてるのか?」
「え? ぼくはその…シュンくんの事だいす…いやそうじゃなくて!
人間は危ないとか、恐ろしいって教えられてるから警戒すると思うんだ」
なるほど。レリィと最初に会った時、
あんなにつんけんしてたのはそのせいか。
きっと俺が異世界に抱いていたイメージと同じようなものを
人間に持っていたのだろう。
「うーん、じゃがのう。レリィは何か代案があるのか?」
「えっと…うーん、ぼくとイズモが一旦戻って食べ物とってくるとか…」
悩みながら解答を出すが、それに対しイズモは否定する。
「行って戻ってくるまでにシュンが相当消耗してしまうのじゃ。
しかも多分、わらわもレリィも親に捕まって身動きとれんぞ」
「うぅ…た、確かに…」
親は厳しいのかそれともイズモたちが相当やらかしている状態なのか。
多分後者だと思う。だって娘が突然朝帰りなんてそりゃあ驚く。
「つまりじゃ、町に誰も見つからずに入って
シュンが休める場所まで行けばよいのじゃろう?」
「そんな方法、あるの?」
彼女は何かよからぬことを考えていそうな顔をしている。
一体どうするというのか? 俺とレリィはイズモに注目する。
「わらわにいい考えがある」
うーん、それ言うとダメになりそうな気がする…




