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8.勝利の朝

疲労とか貧血でぶっ倒れた俺は深く沈むように気絶していた。

そこから、這い上がるように意識を取り戻していく。

深い水の底から浮かび上がるように…


目が覚めると、見知らぬ天井だった。

木でできたその天井は明らかに俺の家のものではない。

同時に強い倦怠感と頭痛に襲われるが、

ほぼ出席率100%を誇る俺は気合いで起き上がる。


「うーん、スマホスマホ…」


ついいつもの癖でスマホを探してしまう。

起きてまず第一にSNSの新着や今日の予定を確認するのが日課だったのだ。

…そこで、自分が異世界に送られた事を思い出す。


「あぁそうだった…。それじゃあ新着も予定もないわな」


はははと自分を嘲笑する。

しかし俺には新調した新しいスマホがあったはずだ。

あらゆるポケットの中を探すが見つからない。


「エルー? エル、どこだー?」


エルは話せるスマホなのだ。

俺の声が聞こえる範囲にいれば答えてくれるはず…

まさか電源が入っていませんとかいうなよ。


すると、


「あ、シュンくん起きたんだね!」

『ご主人様、おはようございます』


何も嵌っていない窓からレリィが顔を出す。

他にエルの声も聞こえる。


よかった、レリィは動けるほどに回復したらしい。

俺は心の底から安堵する。

あんな傷だらけの彼女はもういないんだ…


更にぎぃ、と朽ちかけた扉を開く音が聞こえ、


「おうシュンよ。起きたか」


外からイズモが小屋に入ってきた。

その動きに支障はないようだが、

彼女は包帯のように布で体中の傷を覆っており、とても痛々しい。

かなりの重症のようでとても心配になる。


「イズモ、そんな傷で動いて大丈夫か…?」

「よゆうじゃ。わらわは丈夫じゃからの。

 もう殆ど治っておるようなものじゃ」


イズモは元気に腕や足を振り回すがあちこちに血が滲んでいる。

できれば彼女も治してやりたいのが…


「わらわは大丈夫じゃ。むしろ自分の心配をするのじゃぞ」


という彼女の意見を無視するのは難しそうだ。

そこに、外にいたレリィも入ってくる。


「シュンくん体は大丈夫? どこか痛くない?」

「それはこっちの台詞だよ。レリィこそ怪我は大丈夫なのか?」


彼女の細い体が負ったあまりにも深く、大きな傷を思い出してしまう。

あれは間違いなく死んでもおかしくない程の怪我だ。

元気に動くレリィを見て安心はしているが、

全て治す前に俺が倒れてしまったので完治した確信もない。


「ぼくはシュンくんのおかげで大丈夫だよ!

 ほら、ここにあった傷ももう塞がってるし…」


翼で腹のあたりを指す。彼女の細く柔らかそうなお腹に

うっすらとだが傷の跡があるのがわかる。


それはそうとして。胸のすぐ下から腰まで露わになっていて

さらにその下も殆ど隠していないような彼女の腹部を凝視するのは、

高校生男子の心理的に少し難しい。

俺は「そ、それはよかった」と一言置いて目を逸らす。


多分ちょっとだけ俺の顔は赤くなってると思う。


「あ、そうだエルちゃんを返すね」

「おう。お帰り、エル」

『只今戻りました。シュン様』


スマホの画面にはピシッという効果音が書かれた

敬礼する顔文字が映されている。


どこか気の抜けるその顔に、俺は少しばかり安心感を感じた。


さてと、みんな揃ったところで色々聞いていこう。

主に俺が寝てる間の事について。


「俺がぐっすり寝てる間、どうしてたんだ?」

「えっとね、このエルって子がこの小屋を見つけて、

 ぼくがシュンくんをここに運んできたんだ」

『わたくしのサーチ範囲に建造物があったのは幸いでした』


なんと、俺は傷が治ったばかりのレリィに運んで貰ったらしい…

意識がなかったとはいえ、彼女に大変な苦労をかけてしまった。


「すまん。俺がぶっ倒れたばかりに…」

「そんな、シュンくんがぼくを助けてくれたんだから

 ぼくがシュンくんを助けるのは当然だよ!」

「そう言ってくれるとありがたいな」


彼女は俺の手を翼で握って励ましてくれる。

なんていい子なんだろう…


「あ、それとさっきからレリィレリィ呼んで悪いな。

 ちゃんとえーっと、レオノールちゃんって呼ばないと」

「それならいいよ。ぼくもシュンくんの事シュンくんって呼んでるから」


そういえば俺が倒れる前…いや、あの怪物が現れる前までは

俺はレリィから人間って呼ばれてたな。

それよりは名前で呼ばれた方が親しみを感じる。


「話を戻そう。その後は?」

「おう。レリィは散らかっていたこの小屋を片付けて、

 わらわはそのエルに手伝ってもらいながら傷に効く薬草を集めておった。

 エルはわらわも知らぬ薬草を次々発見していったのじゃ。すごいのじゃ」

「そうかそうか。エルが役に立って何よりだ」


画面の中のエルは褒められたせいか自信あり気だ。

しかしエルはナビゲートできるし武器もあるし知識まで豊富らしい。

俺のスマホはとんでもなく優秀だ。


「エル。わかっちゃいたけどお前って本当に凄いんだな」

『お褒めに預かり光栄です。何せ、最新機種ですから』


最新機種、凄い。

間違いなくそれだけではないと思うが、今はそういう事にしておこう。

しかしいつか、いつの日かエルの正体みたいなのを調べたいとは思っていた。

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