side暗殺者 束の間における決意
旦那様は案外優しい人なのかもしれないわ。
だって自分を覗いた不審な女を不問にしてくれるなんて普通は考えられないもの。
或いは、日常茶飯事とか? だからもういちいち面倒で?
有り得る。あの容姿だもの世の中の皆が放っておかないでしょ。
でも、そんな人がいたらあたしが撃退してくれるーッ。
あたしは彼の正式な妻だもの。妻以外の誰に大事な夫のお尻を見せてやるかってのよね! ……まあ彼は妻にも見せないだろうけど。そこはそこ。
ところで、旦那様に捕まりかけたあの夜からこっち、あたしは彼に避けられている。
何だいつものことじゃないかって思うでしょ。確かに結婚当初から避けられてと言うか空気扱いされてはいたけど、あの精神的冷遇とはまた違った感じなのよね。
じっと見つめられたかと思えば気まずそうにサッと目を逸らされて、そのままどこかへといなくなられる。
書斎でも鍛錬場でも廊下でもそう。仕事や鍛錬が半端にならないのかしらって思うけど大丈夫なんだろう。
あたし、何かした?
うんまあかなり大胆に覗きはしたけど、あたしだとはバレてないからその線はないわよね。
うーん、でももしも何かから手がかりを得てあたしが犯人かもしれないと疑っているとしたって、あの挙動にはならないでしょ。
彼ならお前があの夜の変態だろって直接問い質してくるに決まってるもの。
あーあ、だけど折角押しかけても大好きなお顔を思う存分拝見できないんじゃ意味がないわ。
もういっそのこと暗殺に本腰を入れるべきかもしれない。
実家からも王家からもまだかって催促は来てないけど、それだって時間の問題だもの。
そうよね、あたしがここに来た目的を果たさないと。
旦那様の姿を見て声を聞いていられる最高の時間を自らの手で壊さないとならないのは心苦しいけど、何事にも終わりはある。仕方ないのよ。
……なーんてね~。催促されるまでは現状維持でいっか~。
だからね、必ず来る決行までの間はせめて蕩けたチーズみたいに執拗にくっ付いてでも一緒に過ごしたい。後悔なきようこれまで以上に毎日眼福祭りの開催よ!
ふふふふふ、御身を覚悟なさってね、親愛なる旦那様。




