side暗殺者 煩悩くゆるオペラグラス
「ぐふふふふふ。甘い、甘いのだよ~、旦那様~」
彼ってば妙に感が鋭いのか、お背中流し作戦はどの日も始める前から終わっていたみたいだけど、あたしの神の如き男体を拝みたい願望は諦めを知らないのよ。鍛錬時だと半裸だから、全裸じゃない。下は穿いてます、だもの。
とうとうあたしの留まる所を知らない探求心は、遠くからオペラグラスでお風呂を覗くなんて、淑女として後戻りできない不埒な犯罪すら実行させた。
さあいざ! あの湯気で曇ったガラスの向こうにはパラダイスが待っているぞよ!
とある夜、めっちゃ鼻息を荒くしたあたしは、庭の木の上でドキドキしながらオペラグラスを目元まで上げた。
瞬間、確かにあたしは旦那様の姿を捉えたわ。
だけど如何せん、二階浴室の曇ったガラスがほとんどを隠してしまって、顔の辺りだけ。
しかも、オペラグラス越しに目が合った。
まあでもどうせ向こうは遠くてこっちには気が付かないでしょうね。夜の闇に暗く沈む庭の木々があるなーとしか。あたしも今は任務中に着用する薄手の全身黒タイツだし目立たないはずだもの。
なーんてすっかり安心し切っていたんだけど、旦那様は大きく目を見開いた。
え、え、何その反応? まるであたしが見ているってわかったみたいな……?
何かを叫んだようだけど声は届かなかった。ただ彼がギョッとしてすぐさま近くのタオルで体を覆ったのは見えた。
これは疑いようもなくハッキリわかる。彼にはどうしてなのかあたしが見ているのを察知できたみたい。
もしかして、彼は野生動物並の視力の持ち主なの? だとしたらバレるのもわかる。でも事前にはそんな情報なかったのに。
とは言え、悠長になんてしていられなかった。
何と彼はあろうことかタオルを巻いただけのあられもない格好で勢いよく窓を開けて飛び出してきたんだもの。
冗談でしょーっ、そこ二階なのにーっ! いやそれ以前にタオル一枚ってどうなのよーっ!
ひーっ、覗きの現行犯で捕まえるつもりなんだわ!
でも待って、結果的に肝心な部分は見てないのに覗き痴女として捕まるなんて割に合わないーっ! 見てから捕まるならまだしもーっ!
いやいやいやここで捕まる前提でいちゃ駄目でしょ。捕まるわけにはいかないでしょあたし! かくなる上は逃げ仰せてみせるわ!
ってうっそ速くない!? 反則よそれーっ!
旦那様ってば伊達に魔物と戦ってないわね。油断してたら追い付かれそうなんですけどーっ!? 裸にタオル一枚でどうしてそんな動きできるのよーっ……て、ああむしろ裸同然だから速いの!?
しかも夜で見えないからいつにない開放的な気分で!?
そんな野性的な一面もあったわけ旦那様って!? じゃあ野外プレイも平気でしたり……? キャーーーー激しい人おおお!
ああいけないいけない。思考が奔放に。今は逃げ切らないとならないってのにね。
何故か彼はその一時だけ不思議と羞恥でも感じたように遅くなったけど、また戻った。
え、これってマジで追い付かれるのでは?
ホントに近くなってるし!
ほらすぐ後ろに来たし!
ヤバいーーーー!
「――捕まえたぞ」
耳元に吐息と、腰回りに絡み付く屈強な腕と。
あ、あ、あ、詰んだ……っ!




