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side標的 不穏な決意

 もう潮時かもしれないと彼女は胸中で呟いていた。


『やっぱり白黒付けるべきよね。諦め悪く弟が引き返してくる可能性も捨て切れないし、弟以外の誰かが来るかもしれない。何にせよ余計な騒動が起きる前にあたしの手で何とか決着させないと。善は急げって言うし、もしかすると今夜が正念場かもしれないわ』


 義弟の馬車をいつまでも見送る彼女は、いつになく深刻な顔付きでいた。

 決着と聞き、ぎゅっと心臓が握り潰されたような不快感が込み上げる。


 きっと彼女は今夜俺の寝室へと現れるだろう。

 無論、闇に乗じて俺を暗殺するために。


 俺たちは初めから暗殺者と標的同士。それ以外の何物でもなかったんだと改めて実感した。わかっていたはずなのに忘れかけていた現実を不意に突き付けられ、間抜けにも酷く動揺している己を、一から鍛え直してやりたい気分だ。


 同時に、どこかでこれで終わりかとホッとし、また、その反面結局はこうなるのかと底のないような落胆を感じもした。


 応接室では、彼女が当然出戻ると考えていた義弟の幼稚な挑発に抗したくなって、今まで一度もしたことのない親密さをアピールなんてした。自分でも誰だこれはと胸中で頭を抱えたように彼女は最大に戸惑っていたが、合わせてくれたのは幸いだった。

 その真意は、彼女に代わって俺を暗殺しようと目論む弟をさっさと帰したかったからなようだが、内心で俺を自分の獲物だと言いつつも案じているきらいもあった。


 全く彼女もどうかしている。標的の命を心配してどうするんだ。いくら俺の容姿が好みど真ん中とは言え彼女は正気なのか?


 それでも、今夜云々と伝わってきたこの瞬間、応接室での気持ちの熱さとは真逆にも、心が氷にでもなったようだ。


 果たして、彼女からの殺意と暗器を向けられて、俺は冷静に対処できるだろうか。返り討ちになどできるだろうか。


 いつの間にか、ハチャメチャなあの手この手で言い寄ってくる彼女を心の内側に踏み込ませてしまっていたのだと、こんな今更になって自覚した。


 心から追い出すのはもう遅いだろうか?

 いや、まだ間に合うはずだ。


 俺は大公として領地に責任がある。単なる現国王の私的な権力向上欲のために犠牲になるわけにはいかない。

 殺されるわけにはいかないんだ。


 たとえこの手を彼女の細首に掛けることになろうとも。

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