三話 胸騒ぎ
「おかえりなさいませ、お嬢様」
「マチルダ、お迎えありがとう……」
「この後お召し物の準備をしに参りますね。お嬢様は先にお部屋にお戻りになってください」
公爵邸に帰ってきてようやく、私はまともに呼吸ができるようになる。
それくらい、知らない人だらけの学園は……息が詰まるわ。
とは言っても、私は使用人にも人見知りを発揮してしまうから……使用人の中では、専属侍女頭のマチルダとしか会話ができない。
あとは両親と妹のロザリー、それに王太子妃教育をしてくれている教師たち。
だから、彼女にはとても感謝しているの。
ロビーから二階へ続いている階段。
階段の上では、珍しく妹のロザリーがニコニコと笑いながら立って私を見ている。
普段なら、友人の令嬢達とお茶会をしている時間なのに。
私はなんだかその笑顔に違和感を覚えた。
けれど、気のせいだと思い込んでロザリーが待つ二階へ向かう。
____コツ、コツ、コツ……
ヒールの音が嫌に響いた。今、この場には私とロザリーしかいない。
あっという間に二階へ到着する。
ロザリーは、私に雑談をするわけでも、何か伝言を伝えてくれるわけでもなかった。ただ黙って、ニコニコと穏やかな笑みを崩さないでいる。
嫌な予感がする。
その瞬間だった。
____ドンッ……!!
「…………え?」
「っ、どうして、あなたみたいな『根暗令嬢』が王太子殿下の婚約者なのよっ……! 私の方が、よっぽどっ……!」
____私、今、押された……?
…………階段を落ちている間、静かなロビーでロザリーの悲痛な叫び声だけが鼓膜に響いていた。
そして次の瞬間、背中と頭に大きな衝撃が走って、私は意識を失ったのだった。




