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二話 孤高の王太子ニコラス・エドワード・アヴェリオン

 ___ガチャ……


「おい、遅いぞ!いつまで待たせるつもりだ!」

「……!? 殿下……? なぜまだ教室に……?」

「ハァ……。帰ろうと思ったら、フィオレリアのカバンが残っていたからな。それにしても、相変わらずお前は暗い女だな。さすがは根暗令嬢といったところか」


 ……腕を組みながらこちらを不機嫌そうに見つめているのは、アヴェリオン王国の王太子であるニコラス・エドワード・アヴェリオン殿下。


 そして、私の婚約者でもある。

 私が宮殿に行かなければいけない理由は単純、王太子妃教育を受けるためだ。




「フィオレリア、なぜまだ学園内にいる? 理由を言ってみろ」

「申し訳ありません、本の返却期限が今日だったので、図書室に行っておりました……」

「図書室、だと?」


 殿下の眉がピクリ、と動いた。


「またあの男に会いに行っていたのか?」

「……? 失礼ですが、どなたのことを仰っていますか……?」

「図書館司書の男のことに決まっているだろう! 婚約者がいながら、男に会うためにそんなに図書室に通い詰めて、良い身分だな」

「え、えぇ……?」


 殿下は一体何を言っているのかしら? この学園の図書館司書は確かに男性だけれど、三十代だしとても愛妻家な方なのに……。まさか、不貞を疑っていらっしゃる?


「あの、殿下……レイモンド卿はとても奥様を大切に思っていらっしゃいますし、何より私は本が好きなだけで……」

「!? まさか、名前で呼んでいるのか!? 私のことはいつまで経っても『殿下』と呼ぶくせして……」


 ……だめだわ、まったく話を聞いてくださらない。というか、気にするところはそこなの……?


「チッ……とにかく、今後は男遊びはやめて宮殿にまっすぐ来ることだな」

「ですから、私は……」

「言い訳はいい! フィオレリア、もうお前には付き合いきれない」

「……申し訳、ありません……」


 殿下はイライラした様子でため息を吐いてから、教室を出て行ってしまった。




 ……殿下とお話しすると、いつもこうだ。

 そもそも殿下は私に対していつもどこか怒っていて、強く当たってくる。そして私はオドオドしてばかりで、さらに殿下を怒らせてしまうという悪循環。

 それに殿下はいつも私の話を最後まで聞いてくださらないから、結局弁解もできなかった。


 来月には、デビュタントが控えていると言うのに、大丈夫なのかしら……。


 流石の殿下も、エスコートを放棄するようなことはしないと思うけれど……。いくら親同士が決めた婚約とは言っても、初めての顔合わせの後に婚約を承諾したのはほかでもない殿下らしいし……。


 ……昔はもう少し、仲が良かったのにな。セドリック様も交えて三人で遊ぶのはとても楽しかった。なのに、いつの間にかこんな関係になってしまって……。一体、どこで間違えたのかしらね。


 それでも、殿下が婚約破棄を言い出さない限りは、この婚約は続いていく。


「……気が重いわ」


 物語の中のヒロインたちがうらやましい。

 素敵な王子様に愛されて、幸せになって……。幼い頃は、私もそうなれると信じていたのに。


「私も帰りましょう…………」


 これ以上考えても、虚しくなるだけね。きっと、この関係は変わらない。


 小説みたいな出来事なんて、私みたいな根暗令嬢には起こらない。




 私はとぼとぼと誰もいない校舎を歩いて、迎えに来ていた公爵邸の馬車に乗り込んだのだった。


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