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メーレン VS グレッグ=アストロクス

「メーレン様。大丈夫かしら?」


 ノーチラスの三等捜査官が中心となった実働部隊。商館本部を取り囲み、突入合図まで待機を命じられていた。


「キリシマ三等。突入は首謀者を取り逃がさぬよう、合図を待ってからだ。それに首謀者を捉えても、首輪のレプリカを持った残党一人逃してしまうだけで任務は失敗となる。」


「わかってます。待機、ですよね。でも心配なんですよ。」


 キリシマ三等はメーレンと同じ21歳の女性捜査官。彼女はまだノーチラスに入隊してから日が浅いが、重要任務の補佐として駆り出されることも多い優秀な捜査官だ。


「ははは。お前はまだ歴が浅いからな。メーレン一等は、心配には及ばんよ。」


「だって前回の任務では左腕が……。」


「お前は知らんだろうが、メーレン一等はバケモノだよ。ラットマン事件で左腕を失ったと聞いて、彼女も普通の人間だったのだと逆に安心したくらいだ。」


 待機部隊のリーダーを任されているノブリン二等は笑う。


「彼女はキャリアを持たないが、戦闘力に限れば充分人外の域だ。我々がいたとして、足手まといにしかならないさ。」


 ---


「なんだこりゃあ。」


 グレッグとメーレンの戦闘風景を観戦していたレイブンは驚愕していた。両者の体格から見て、戦闘力の違いは歴然。グレッグに命じてすぐに始末するはずだった。


 しかし、グレッグの振った大剣は一度も彼女をとらえきれていない。それどころか、押されてきている。


 対するメーレンは素手。しかし、グレッグの放った斬撃を弾き、受け流し、その隙をついて明確に攻撃を当てている。


「おいおい。おっさん、冗談だろ?最強の傭兵の名が泣くゼ?」


 大剣を振りかぶりながらグレッグは、苛立つ。目の前のコイツは囮捜査のザコ捜査官ではない。百戦錬磨のバケモノだ。


 戦場にもこういうやつはいた。見た目からはわからない異常な武力をもつ人間。そういうやつと遭遇した時は複数人で囲むか、タイマンでは命懸けの覚悟を持って対処してきた。


 本気でやらねばやられる。

 そう考えたグレッグは一度距離をとり、構えを変えた。


 大剣を水平に持ち替え、呼吸を整える。居合の構えだ。単純な斬撃でスピード負けするのであれば、一撃ずつ、本気の攻撃を繰り出す必要がある。


 対するメーレンも決して余裕があった訳ではない。全ての斬撃が必死の威力。一撃でも食らうわけにはいかないため、全集中でグレッグの攻撃をさばいていた。


「戦時下の行いについては恩赦が出ていたというのに、なぜ悪党についた?」


 距離をおいたメーレンは呼吸を整えるため、グレッグに話しかける。


「フン。」


 グレッグは多くを語らない。語るべきことがあまりないからだ。人間や社会というものに興味が持てない。どちらかというと森や山といった自然の空間の方が好きだ。静かで、邪魔をしない。


 ただ、生きるために戦い、勝利することは得意だった。人を殺した後の静けさは好きだ。かれは沈黙を愛する。レイブン自身はうるさい男だったが、多くの仕事を持ってくる運び屋で、報酬も良い。それだけの関係だ。


「仕事だ。」


 彼はそう言い放つと、大剣に力を込める。一閃の軌跡が燃えるように幻視するほどの剛剣。それを最速で放つ居合いの一撃。


<<ブゥン>>


 風切り音がなる。

 瞬間。大剣の斬撃が直撃したメーレンは建物の壁面まで弾き飛ばされる。


「オイ!!!っ……おっさん!暴れすぎだ!」


 弾き飛ばされたメーレンがぶつかった石壁はガラガラと崩れている。まともに攻撃を食らったメーレンはすでに息絶えているだろう。


「……あーあー、本気にさせちまって。ケヒヒ。あいつぁ女の割にやぁ強かったな。」


 レイブンは勝負が決したと見た。


 しかし、飛ばされた粉塵の中。メーレンはゆらりと立ち上がる。額から血は流れているが、どこにも刀傷はない。


「…ガフッ……くくく。流石に強いな、傭兵。腕を失う前の私では、今ので敗北していたかもな。」


「……ばかな。」


 苦笑しながら、グレッグに近づくメーレン。


 凄まじい一撃を受けたというのに、その身体には大きなダメージは見られない。一方でメーレンの左腕はバチバチと音をたて光っている。


 グレッグは冷や汗をかいていた。


 奴はあの左腕で斬撃を受けた。

 あの剣から伝わったあの感触。生身の感触ではない。左腕に武器を隠していたか。


 もう一度、グレッグは居合の構えをとる。何度でも撃ち直す。コイツが沈黙するまで。


 対するメーレンは涼しげな表情。


「もういいぞ。今の攻撃で貯まったからな。」


 メーレンは左手をグレッグに向けて構える。


「ルーン。解放。」


 メーレンが言い放つと同時に、周辺の空気が膨張する。幻視ではない、本物の熱。


 左腕の義手に組み込まれた、電磁鞭と同じ機構により、これまでの攻防でエネルギーが蓄えられていた。一等捜査官が本気で放つ電磁鞭は、常人であれば黒焦げになる威力。


「こい」


 メーレンの挑発。

 グレッグはもう一度、居合の剣を振るう。

 ただし、今度は腕でガードされないよう、足を狙う。

 機動力の要である足を奪えば俺の勝ちだ。


 首筋を狙ったグレッグの一撃。

 しかし、これはフェイントだ。

 剣筋は途中でクンッと下段へと曲がる。


(勝った)


 グレッグが勝利を確信した時、剣先にメーレンの肉体は無い。


「上だ。」


 跳躍したメーレンは、グレッグの頭上からエネルギーが満タンに貯まった電磁腕を叩きつける。


 瞬い閃光と響く雷音。

 グレッグの頭部に直撃した。


「は?」


 レイブンは目の前の光景を受け入れられずにいた。

 圧倒的な体格差。グレッグの傭兵としての実績。

 

 レイブンには敵が多い。

 命を狙われたことも、一度や二度ではなかった。

 その度にグレッグは撃退してきた。Cランクのキャリアを葬ったこともある。


 電流をまとったメーレンの一撃を受けたグレッグは倒れ。

 そのまま動かなくなっていた。


 (あのグレッグが女に負けた?)


「あとはお前だな。だが、貴様には捕縛命令が出ている。殺しはしない。監獄でしっかりと搾られるがいいさ。骨までな。」


「バ、バケモノ。」


 それを聞き、メーレンは高らかに笑う。

 久しぶりに聞いた。かつて最高の誉め言葉だった。

 強さの証。


 しかし、本当のバケモノは他にいる。

 キャリアだけではない。

 ノーチラスの中にも、メーレンでは一度も勝てない相手が大勢。


「ははは。この程度でバケモノ呼ばわりか。」


 ツカツカとレイブンに近づくメーレン。

 ガッと彼の襟元を掴み、冷たい吐息とともに耳元で囁く。


「若いな、小僧。」

挿絵(By みてみん)


【グレッグ=アストロクス】

キャリア:なし

42歳。最強の傭兵として名高く、カドキワ国と中央帝国との大戦では数々の武功を上げた猛者。終戦後は恩赦により戦時中の行いについては不問となった。その後、様々な商家の用心棒として日銭を稼ぐようになる。レイブンは金払いが良いため、最近は専属のボディガードとなっていた。


挿絵(By みてみん)


【メーレン(電磁腕ver)】

ラットマン戦で左腕を失ったメーレンは義手に電磁鞭と同じ機構を組み込む。これにより潜入捜査でも左腕を武器として携帯できるようになった。

攻撃の衝撃を吸収し電気エネルギーに代える仕組みになっており、攻撃と防御、どちらにも活用可能。

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