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EP 6

『佐藤太郎の遺産と、泥をすする鉄の心臓ジェネレーター

「……宮河社長。先日の買収の折、お約束していた『帝国宝物庫の横流し品』をお持ちしました」

 ポポロ村のPPC(ポポロ石油公社)仮設オフィス。

 ゴルド商会のゴルド会長が、すっかり揉み手と愛想笑いが板についた姿で、木箱を運び込んできた。今や彼は、大陸最大の商会長でありながら、金吾の忠実な『ロジスティクス部門長』である。

「ご苦労。……で、なんだこの鉄屑は。俺は帝国の技術水準が分かるものを要求したはずだが?」

 木箱の中に入っていたのは、魔石をはめ込むスロットもない、無骨な赤い鉄の箱だった。側面に『100V』『無鉛ガソリン』と、この世界の人間には読めない文字(日本語)が印字されている。

「はっ! 実はそれ、ルナミス帝国を建国した初代皇帝にして『異世界人』、佐藤太郎様が遺した『不良在庫デッドストック』でして」

 ゴルドがハンカチで汗を拭いながら解説する。

「佐藤様はこれを『光の聖杯』と呼んで大事にしておられたそうですが、魔力を一切通さず、魔法陣も刻まれていない。歴代の宮廷魔導師たちが数百年かけて解析しても、うんともすんとも言わないガラクタでして……」

「……」

 俺は赤マルを咥えたまま、その『ガラクタ』を見下ろした。

 笑いが出そうになるのを必死でこらえた。

 佐藤太郎。あんたのスキル『100円ショップ(ホームセンター含む)』は優秀だっただろうが、致命的な欠点があったんだな。

 機械ハードは召喚できても、それを動かす燃料ソフトがこの世界にはなかったんだ。

「うっひゃああ! なにこれ!?」

 ルルカが飛びついてきて、赤い箱を舐め回すように観察し始めた。

「すごい! あたしの作ったエンジンより、はるかに精密なシリンダー機構! でも、魔力回路がない! これ、どうやって世界パズルに干渉するつもりで作られたの!?」

「簡単なことだ、ルルカ。そいつは魔力で動く魔法の箱じゃない。……油を飲んで、電気ピカピカを吐き出す『鉄の心臓(ポータブル発電機)』だ」

「……かわいそう」

 ふと、悲しそうな声が落ちた。

 キャルルさんだ。彼女は、何百年も宝物庫で埃を被っていたその発電機を、まるで迷子の子供を見るような優しい目で見つめ、そっと撫でた。

「こんなに立派な体があるのに、ずっと息ができなかったんだね。……暗くて、寒かったよね」

「村長。そいつはただの機械ですよ」

「ううん。作った人の『みんなを明るくしたい』って願いが詰まってる。……金吾くん、この子、起こしてあげられないかな? 北極星みたいに、村のみんなを照らしてあげてほしいな」

 キャルルさんの、万物に対する無償の愛。

 機械の事情など、俺の算盤には本来関係ない。だが、俺がこの村の夜を独占し、帝国を完全に圧倒するためには、ルルカの小規模な手作り発電機では限界が来ていたのも事実だ。

「金吾くん、お願い。……はい、コーヒー飴」

 キャルルさんが、いつもの小袋から飴玉を取り出し、俺の口元に差し出した。

 俺は無言でそれを受け取り、口内に転がす。そして、奥歯で――

 ボリッ。

 硬質な破砕音が、オフィスの空気を一変させた。

 コーヒーの苦味が脳髄を叩き起こす。俺は赤マルを灰皿に捨て、上着を脱いだ。

「ゴルド、下がってろ。ルルカ、配線の準備だ。村中の通信網と照明回路を、こいつに直結させろ」

「あいあいさー! 世界のルールが変わる瞬間だね!」

 糖分満タンのルルカが、狂ったような速度でケーブルを繋ぎ始める。

 俺は、精製したばかりの『高オクタン価ガソリン』をタンクに注ぎ込んだ。

 そして、スキルの【分子構造編集】で、何百年も放置されて固着していたエンジン内部のオイルと錆を一瞬で分解・潤滑させる。

「目覚めの時間だ、佐藤太郎の遺産」

 俺は、スターターのリコイルを力強く引いた。

 ブルルンッ……。

 一瞬の沈黙。

 ガガガガガガガガガガッ!!

 けたたましい爆音と共に、鉄の箱が激しく振動を始めた。

 数百年の眠りから覚めた『鉄の心臓』が、石油という血液を得て、猛烈な勢いで脈動を開始する。

「な、なんだこの音は!?」

 ゴルドが腰を抜かす。

 次の瞬間、ルルカが繋いだ配線を通じて、膨大な電力エネルギーがポポロ村の送電網へと一気に奔流した。

 ファミレスのネオンが、村の街灯が、そしてルルカの防衛システムが、これまでとは比較にならないほどの強烈な光を放つ。

「素晴らしい……。魔石の消費ゼロで、これほどの光量と出力を……。これぞまさしく、革命の光」

 タキシード姿のヴァルグが、眩しそうに目を細めながら、恍惚とした表情で呟いた。

「やったぁ! おはよー、鉄の子! 金吾くん、すごい! すっごく明るいよ!」

 キャルルさんが、輝く照明の下で、子供のように飛び跳ねて喜んでいる。

 俺は、騒音を立てて稼働する発電機を見下ろし、新たに赤マルに火を点けた。

 佐藤太郎。あんたは偉大だったが、時代が早すぎた。

 あんたが夢見た『明るい世界』は、俺の黒い泥と、この狂った女の愛が完成させてやる。

「ゴルド。帝国に伝えろ」

 俺は、紫煙を吐き出しながら、震える商会長に冷酷な通告を下した。

「『夜は俺たちが買い取った』と。……帝国の魔導灯がすべて消え去るまで、あとわずかだ」

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