第六章 救援(5)
消えたはずの瘴気が、再び地面から湧き上がるように現れ、炎の壁を跡形もなく消し去ってしまった。
瘴気はリチャードの体からも、勢いよく噴き出してきている。
「嘘、どうして!?」
マリアは狼狽えた。『封呪の法』の光は確かに輝いて、リチャードを包んでいるのに。
ハンスも飛竜の上から、その様子を見て驚愕していた。
こんなことは、古文書のどこにも書かれてはいなかった。
「マリア、気を付けるんだ!リチャードは、自分の命を石に吸わせて、力に替えている!」
「なんですって!?」
信じがたい光景だった。
命脈が閉ざされた状態で、アウラからの力の流入も途絶えたリチャードが、自らの命を燃料として禁呪の力に替えていたのである!文字通り己の命を燃やし、恐ろしい速度で消費しながら、狂える悪魔へと変貌したのだった。そこにはもはや、野心などというありふれた情動に収まる人間の姿はなく、それらを遥かに超越し、怪物のように肥大した怨嗟の念によって突き動かされている、変わり果てた亡霊の姿だけがあった。
黒い瘴気を吐き出しながらリチャードは、驚きと恐怖におののいているマリアを目がけて、一直線に襲い掛かっていった。
その時ナジャが、乗っていた飛竜から飛び降りて上空からリチャードの目の前に着地し、二本の短刀で刃を受け止めた。
刹那、ぶつかり合う金属音が、激しく大気を震わせる。
しかしさしものナジャも、恐ろしい力に後ろへ押し込められてゆく。
そこに、リフローネも上空から現れて、剣を手にしてナジャに加勢し、二人がかりで左右からリチャードの突進を押し止めた。
「首飾りの石を、破壊するのです!」
リフローネが叫ぶ。ナジャは相手の怪力に耐えながら、不気味な輝きを増している琥珀色の石を叩き割ろうと刀を振り上げた。
だが、リチャードが力任せに腕を振り払うと、二人は為すすべもなく弾き飛ばされてしまった。
リチャードはそのまま、真っ直ぐにマリア目掛けて突進してくる。
エイファはリチャードの額を狙って矢を放つが、矢は見えない力に弾かれ、無情に地面に突き刺さる。
「エイファ様、あの石を狙って!」
二の矢を引き絞るエイファに、マリアが叫んだ。
「心得た、妃殿!」
エイファは、力一杯弓を引き絞ると、リチャードの胸元目掛けて矢を放った。そこへマリアが風の魔導を呼び出すと、風は矢を周囲に螺旋を描きながら取り囲み、その速度を一気に押し上げた。
そして矢は、凄まじい勢いで回転しながら、リチャードの胸元へ突き刺さったのである。
中心を射貫かれた首飾りの石は、はじけるような音を残し、粉々に砕け散ったのだった。




