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ノアの終焉  作者: 齋藤昴
第3部
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第六章 救援(6)

 リチャードは矢の衝撃を受けて大きく仰け反ると、そのまま背中から地面へと倒れ込んだ。

 街道の石畳の上に、光を失った石の破片が散らばった。

 彼を包んでいた瘴気は、完全に消え去っていた。

 リチャードは仰向けに倒れたまま、呆然と虚空へ視線を泳がせていた。

 双眸は落ちくぼみ、美しかった顔貌は見る影もなくやつれ切ってしまっていた。体中のあちこちが痛みで悲鳴を上げている。

 すべて、衝動のままに力を行使した報いだった。

 マリアは、手の中に魔力を使いきってすっかり白く変わった石を持ったまま、ゆっくりとリチャードの傍まで歩いていき、抜け殻のようなその顔を見下ろした。

「リチャード、あなたの負けよ。反乱は失敗に終わったわ」

 彼女の言う通り、首謀者を失った反乱軍は驚くほど脆く崩壊してしまった。もともと利害によって短絡的に結びついただけの集団である。覚悟を持って戦い続けようという者はほとんどいなかった。大抵の者は戦意を失い、そのまま降伏した。港から慌てて逃げ出そうとした者も、船から火の手が上がるのを見ると、呆然とその場に崩れ落ちるばかりであった。

 リチャードは苦しそうに肩で息をしながら、焦点の合わぬ目を向け、マリアに向かって吐き捨てるように言った。

「貴様らには、分からぬだろうさ・・・。『持たざる者』の苦しみなどは・・・」

 力なく笑う声を聞いても、マリアは表情を崩さなかった。

「ええ・・・きっと、分からないと思う。でもせめて『持たされた者』の苦しみだけは、手放さず背負い続ける覚悟はあるわ」

 そう言って、マリアはリチャードに背を向けた。

 もう、振り返りはしない。

 彼女は歩き始めた。リフローネと、エイファと、そしてフェルドリアが待つ方へ向かって。


 戦いを終え、王城の前まで戻ってきたマリアを、フェルドリアは温かく出迎えた。

「お帰りなさい。マリア、貴女は、とても立派でした」

 マリアは、汚れのついた顔に笑みを浮かべ、それに応えた。

 彼女の目は、清々しく澄んでいた。

「姉さん、私、リーフと一緒にハーラントへ行ってくる」

 マリアの言葉に、フェルドリアも微笑みながら頷いた。

「それがいいでしょう。前にも言ったとおり、リフローネ王女には、貴女が力になってあげて下さい」

 二人の言葉を聞いて、リフローネは右手を自分の胸におき、彼らに頭を下げた。

「陛下、マリア、ありがとうございます」

「礼を言うのはこちらの方です。貴女は妹を救って戴き、共にこの国を守るために戦ってくれました。本当に感謝しています」

 女王もリフローネに頭を下げた。

「それから、ハンス」

 女王は、飛竜から降りてきたばかりのハンスの方を向いて声をかけた。

「あなたも、マリアと共にハーラントへ行くのです」

「え?ぼ、ぼくも?」

 ハンスはきょとんとした顔をして、ずりおちた丸眼鏡をかけ直した。

「カレンツァ帝国の影に暗躍する『アウラ教団』と戦う時、あなたの知識が必要になるでしょう」

「はあ・・・」

 リフローネは、ハンスに微笑んで言った。

「よろしくお願いしますね、ハンス王子」

「あ、いえ、こちらこそ・・・ははは」

 ハンスはつられて笑顔を作りながら、頭を掻いた。マリアは彼を肘でこずきながら、意地悪っぽく声をかけた。

「兄さんたら、しっかりしてよね。リーフには、頼りになる騎士(ナイト)がいるんだから、わかってる?」

「え・・・!?そんな、マリア、何言って・・・」

 狼狽えるハンスを横目に、マリアはため息をついた。そこにエイファが、笑いながら加わってくる。

「はは、加勢が必要な時は、いつでもゴルドを頼るがよい。余はそなたのためならば大陸中どこへでも飛んで行くぞ、妃殿」

「・・・!エイファ様、お願いだから、その呼び方は勘弁していただけますか?」

 マリアはばつがわるそうに顔をしかめる。

 リフローネは可笑しそうに笑って、彼女に言った。

「よかったですね。マリアには、大陸で一番頼りになる騎士がついていますよ」

「リーフまで・・・!もう、やめてよ~~~!」

 温かな笑い声が、風に乗って大空へと上ってゆく。

 リフローネは、ここへ来て本当に良かったと思っていた。


 グランルートを襲った未曽有の危機は、エルドラドとゴルドの歴史的な同盟の前に辛くも回避された。その爪痕は深く、荒廃した王都の復興には多大な時間を要すると思われたが、かけがえのない友を得た魔導の国は、確実に明るい未来への道のりを歩み始めたのである。

 そして、敵の魔導に対抗する力と心強い仲間たちを得て、リフローネは再びハーラントの地へと舞い戻る。そこに何が待ち受けていようとも、もう恐れはしない。仲間たちとの絆が、希望へと繋がる確かな道しるべになることを、彼女は確信している。

 カレンツァ帝国と、アウラ教団。

 神話と秩序、世界を動かす力の理。それらと戦った末に、何を見るのか。

 今はまだ、答えは見えない。


(第三部 完)

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

第4部は10月頃からの掲載を予定しています。

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