第六章 救援(1)
ゲーティア大陸歴973年6月23日早朝、この日、エルドラド王国の王都グランルートは南西からの潮風が吹く快晴に恵まれた。海岸から臨む海は鮮やかな青色に輝いていたが、そこに突如として400隻もの反乱軍の帆船が現れた時、王都は瞬く間に大混乱に陥った。
船の一隻一隻には、大勢の魔導士たちが潮風にローブをはためかせながら甲板に並び立っていた。
彼らが一斉に両手を頭上へ掲げると、空中に無数の燃え盛る魔導の火球が現れた。火球の群れはそのままグランルート市街まで飛来して、建物や広場などを瞬く間に燃え上がらせていった。
王都のあちこちで黒煙が上がる。
その圧倒的な火力の前に、グランルートの守備隊はなすすべもなく、敵の上陸を許してしまったのである。
港に悠然と降り立ったリチャードは、不敵な笑みを満面に浮かべながら王城の方角を仰ぎ見た。
ついに待ちわびた時がやって来た。魔導の血脈に縋る愚かな上流貴族どもを、欲にまみれた特権の座から残らず引きずり下ろす、その時が。吐き気を催すような、腐敗したこの国は、今日で終わる。そして新たな王が生まれるのだ。血統に依らない、真に優れた王が。
魔導の力を持たぬこのリチャード・ライプニッツの君臨をもって、己を軽んじ続けたこの国に対する「復讐」は完成する。
胸が高鳴る。
首元の宝石は、琥珀色の輝きを強くしていた。
その時不意に、街道沿いの建物の影から守備隊の兵士が現れ、リチャード目掛けて飛びかかっていった。
職務に忠実なこの兵士は、決死の覚悟で身を潜め、反逆者の首を取ろうと襲いかかったのである。
リチャードはそれを、蝿でも払うかのように剣でなぎ払うと、兵士は音を立てて街道へ倒れ伏した。事切れた兵士の身体から、黒い瘴気のようなものが立ち上ぼり、リチャードの首飾りへと吸い込まれていった。
「ハハ、力が漲ってくるぞ。なるほど、命を捧げる程に、与えられる力も増すようだ」
内から沸き上がる力の衝動に、リチャードは狂喜した。
さあ、今や我らを止められる者はいない。このまま女王の所まで攻め上り、その恐怖に歪んだ顔を見せてもらおうではないか。
血のように赤いマントを潮風に靡かせながら、反逆の騎士は真っ直ぐと王城へ向かって歩き始めた。




