第五章 ゴルド(5)
「マリア、大丈夫ですか?」
ゴルド王エイファとの謁見の後、リフローネは放心状態のマリアを心配して声をかけた。マリアは、顔から尋常ではない汗を滴しながら、ゆっくりとリフローネの方へ振り向いた。
「・・・大丈夫よ。ただ、いろいろなことが一度に起こって、感情が追い着いてきていないだけ」
どっと疲れた、といった様子で、彼女は背中を丸めて大きく息を吐いた。哀愁漂うマリアの姿に、リフローネは可笑しさを覚え、思わず微笑んだ。
「凄いじゃないの!ゴルド王に、援軍を約束して貰えたのですよ!」
「・・・僕も、びっくりしたよ。いきなりあんなこと言い出すなんて」
ハンスも、心配そうにマリアに声をかける。
「私も、正直自分に驚いている。気づいたら無我夢中で叫んでいた。私たちのことをどうしたら信用してもらえるか、それしか頭になかった」
後ろの方で、エイファがハハハと笑う声がした。
「なかなかいい度胸だ。本気で娶りたいくらいだぞ、妃殿」
「妃・・・っ!もう、からかわないで下さい!」
首を竦めるマリアを見て、エイファはもう一度快活に笑った。
「よし、今すぐにグランルートへ向けて出陣する!飛竜を引け!」
エイファの掛け声とともに、ゴルドの戦士達は次々に飛竜の背中へまたがった。
エイファは、まだ動揺しているマリアを促して、自分の飛竜の後ろに乗せてしまった。リフローネ達もそれぞれ別の飛竜へ、ゴルド人とともにまたがった。
戦士達を乗せた飛竜の群れは、ヴァルガ山の岩肌に爪を突き立てながら、次々と急斜面を登って行った。頂上近くはほぼ垂直になり、冷たい風が吹き付ける。ハンスとマルコは、あまりの高さに震え上がるようだった。
リフローネも飛竜の背中から滑り落ちないよう必死にしがみつきながら、心の中で女神に祈った。
(私たちに、女神ノアのご加護がありますように)
頂上へ到達した飛竜たちは、次々に翼を広げ、大空へと飛び立っていった。
向かい風が勢いよく全身に当たる。
「アアアアアアアアアアア―――――――――――!!!」
ゴルドの戦士達が大声で奇声をあげながら、飛竜に乗って滑空する。
マリアは、激しい風を顔面に受けながら、必死に目を開いていた。
雲の切れ間から、わずかに丸みを帯びた水平線が見えてくる。やがて視界が晴れ、青い海に浮かぶ半島の地形も見えてきた。
半島の先端に、青と白のグランルートの王城が、小さく佇んでいた。
(姉さん、待ってて!今助けにいくから!)
マリアの瞳は、陽光を浴びて白く輝くグランルートの街を、真っ直ぐに見据えていた。




