第二章 エルドラド王国(6)
エルドラドへ滞在中、リフローネには王城の東側にある居室があてがわれた。すぐ隣には、ナジャ達従者のための控えの部屋もあった。
リフローネが着替えを済ませて部屋へ戻ると、すでにナジャとマルコが主君の帰りを待っていた。二人は晩餐会の間、別室で食事を供されていたのである。
「お帰りなさい!晩餐会はどうでした?おいらたちは、リチャードさんや、ここの使用人のみんなにすごく親切にしてもらえたんだ。ここは良い所だね。この国の人たちは、レニ族に対しても変わらずに接してくれるんだ」
マルコは上機嫌だった。彼の笑顔を見て、リフローネはようやく少し安堵することができた。一方、ナジャの方は厳しい顔つきのままだった。
「使用人の間で、少し気になる噂を聞きました。女王の遠縁に当たるモンテリオ伯爵は、まだ若い現女王の手腕に疑問がある、と言って、一部の貴族を味方につけて女王に対立する姿勢を見せているとのことです。真偽のほどはわかりませんが、王国内に複雑な事情があることは間違いないようです」
声をひそめるようにして、そう伝えたのであった。
リフローネはそれを聞いて、晩餐会での違和感を思い出し、あの異様な雰囲気の理由がわかってきたような気がした。。
「今、この国の実権は、現女王フェルドリア陛下と、宰相のケント卿が握っています。しかし、モンテリオ伯はそこに不満がある様子。ケント卿はもとは現女王の教育係でしたが、傍系とはいえ大魔導士グランの血をひくモンテリオ伯と比べると身分は劣ります。モンテリオ伯は、ケント卿が元教育係の立場を利用して女王を意のままに操っていると主張しているようです。現政権に不満を持っている一部の貴族もそれに同調し、緊張が高まっているのだとか」
女王の言う、この国の「事情」が、何となく見えてきたような気がした。
「無理を言って女王陛下にご迷惑はかけられません。この国へ滞在している間、私たちだけででも、魔導について調べることにしましょう」
リフローネがそう言った時だった。
部屋の戸がノックされ、マリアの声がした。
「リーフ、戻っている?」
リフローネは戸を開けて、マリアを部屋へ招き入れた。
「リーフ、あなたすごく素敵だった。私よりあのドレスが似合っていた。ううん、お世辞じゃなくて、本当よ。あの場のみんなが見とれていたわ。挨拶も完璧ね。・・・あのモンテリオ伯は、嫌味なやつよ。自信たっぷりな様子で、姉さんをばかにしたような態度をしているもの。ああ、思い出したらまた腹が立ってきた。あの場で、あいつの髭を燃やしてやろうかと思っていたくらいよ」
マリアは入ってくるなり、色々なことを早口でまくし立てた。
「姉さんのことも、悪く思わないでね。昔は、もう少し優しくて、笑顔も多かったの。即位してから、ちょっと近寄りがたくなったって言うか・・・。きっと、女王に相応しくあるために、威厳を保とうとしているのだと思う。あと、ケント卿の影響もあるのかも。教育係の頃から、姉さんには色々と厳しく教えこんでいたから、今でもその関係が抜けきってはいないのね、多分。でも、本当に優しい姉さんなの。さっきだって、『リフローネ王女には、あなたが力になってあげて』って、そう言ってたもの」
心配そうな、懇願するような、不安げな表情で訴えてくるマリアに、リフローネは微笑みながら答えた。
「ありがとう、マリア。私はあなたを信じるわ。あなたはとても心優しい人だから」
リフローネの言葉を聞いて、マリアはとても安心したように、明るい表情になった。
「ねえ、リーフ達は、魔導について知りたいのでしょう?それなら、私に心当たりがあるの。ちょっと変わっているけど、魔導を深く研究している人がいて。良ければ紹介しようと思うのだけれど」
この申し出には、リフローネも喜んだ。
「願ってもありません。是非お願いいたします」
リフローネは、マリアの申し出をありがたく受けることにした。




