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ノアの終焉  作者: 齋藤昴
第3部
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第二章 エルドラド王国(5)

「リーフ、ごめんなさい。あなたの力になるって、約束したのに・・・」

 女王との謁見の後、広間を辞したリフローネに、マリアは申し訳なさそうに声をかけた。

「どうか謝らないでください。私たちも、いきなり現れてすぐに助力を戴けるとは思っていません。陛下に城へ滞在するお許しを戴けただけでも、大変ありがたく思っています」

 リフローネはマリアの手を取って握りしめ、にっこりと微笑んだ。

「でも、一つ困ったことがありました。折角晩餐会を催して戴けるというのに、盛装を持ち合わせていないのです」

 それを聞いて、沈んでいたマリアの顔が急に明るくなった。

「それなら、私のドレスの中からリーフが気に入ったものを選ぶといいわ!あなたと私なら、ちょうど背格好も同じくらいでしょう?」

 今度はマリアがリフローネの手を握り返して声を上げた。マリアの顔には、笑顔が戻っていた。もう次の瞬間には、リフローネの手を引いて、自分の部屋のドレッサーまで歩きだしていたのだった。

 かくして、リフローネはマリアのドレスの中から一着を選び、それに身をつつんで晩餐会へと出席した。

 晩餐会は、女王とマリア、それにケント卿を筆頭に王国の有力貴族二十名ほどが集まって開かれた。集まった貴族たちは、皆それぞれ異なる色のローブを身にまとっている。

 この国の貴族は、位に応じて色の異なるローブを身に着けるらしい。マリアがそう教えてくれた。

 会は、女王の言葉より始まった。

「皆の者、ご苦労です。今日は、遠くハーラント王国から参られたリフローネ王女との良き出会いを祝し、晩餐会を開くことと致しました。今宵は王女の長旅を労い、両国の友好を喜びたいと思います」

 続いて、リフローネが挨拶をした。

「急な来訪にも拘わらず、私のためにこのような盛大な会を催して戴きました女王陛下に、ハーラント王国を代表して厚く御礼を申し上げます。また、お集まり戴いた貴族の皆様へも、深く感謝申し上げます。温かく迎えていただいた感激に打ち震える思いです。両国の友好のため、私も微力を惜しむことなく尽くしたいと思います」

 リフローネが言い終わると、会場から拍手が起こった。

 その時貴族の中から、濃緑のローブを身に付けた男が一人立ち上がった。立派な口髭をたくわえた顔全体に、どこか自信を感じさせる笑みを浮かべている。

「ロナード・モンテリオと申します。名高き『フレスデンの女神』ことリフローネ王女殿下に、こうしてお会いできました感激に打ち震えております。今日は実に素晴らしい(グラシウス)!本日この出会いは、いかな宝石にも代えがたい奇跡でございます。誠に、王女殿下は『知性』と『勇気』を兼ね備えたお方とお見受け致します。かの哲学者のネルソン・ラーベルも、有名な言葉を残しました。曰く、『勇気なき知性は何物も成しえず、知性なき勇気はすべてを台無しにする』と。実に、その一言一句違わず、極めて当然の真理です。ですが、残念ながらこうした輩は枚挙に暇がない。そのどちらをも持ちえない者は言うに及ばず。何かを成し遂げる人物は、必ず、その二つを過不足なく備えているものです。そうした人物は、常に自身の目指すところへと弛みなく歩を進めるもの。してあるなら、きっと崇高な目的を持ってこのエルドラドへお越しになられたのでありましょう。私どもも微力ながら、王女殿下のお力になることをお約束いたしましょう」

 モンテリオと名乗った男は長々とそう述べて、高らかに笑い声を上げた。

「過分なご評価に恐れ入ります、モンテリオ卿。そして心強いお言葉に、改めて深く感謝を申し上げます」

 笑顔で答えたリフローネは、しかしこの時奇妙な感覚にとらわれていた。

 朗らかなモンテリオ卿に対して、フェルドリア女王とケント卿は険しい顔つきをしている。マリアは不機嫌そうに顔を背けていた。

 彼らのこの様子は、一体どうしたことなのだろうか。

 華やかな晩餐会の水面下で、出席者が互いに何かを探りあっているような気配がする。リフローネは笑顔を保ちながら、違和感の正体を見極めようとしてみた。

 フェルドリア女王は貴族達の挨拶に淡々と応じている。一方でケント卿は、度々モンテリオ卿の方へ警戒するような視線を向けている。モンテリオ卿はそれに気づいているのかいないのか、どこ吹く風で他の貴族達と談笑していた。

 落ち着かない感覚を抱えたまま、それでも晩餐会は、表面上は穏やかに終ったのだった。

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