第二章 エルドラド王国(3)
「うわ~、すごくきれいな街だね!」
グランルートの港へ降り立ち、桟橋から堤防の上へと続く階段を上りきったところで、マルコは思わず感嘆の声を漏らした。
抜けるような青空の下、街中を見渡す限り、白い漆喰で塗られた石造りの建物の群れが広がっている。青色の空と海と、白い建物たちとの鮮やかなコントラストは、リフローネも思わず息を飲む美しさだった。
「どう?なかなかのものでしょ」
遅れて階段を上ってきたマリアが、得意そうな笑みを浮かべてそう声をかけてきた。
「この辺りの家の壁には、石灰岩を利用して作った漆喰が塗ってあるの。潮風や雨によって腐食するのを防ぐためよ」
「そうだったのですね・・・」
庶民の生活の知恵が、美しい街並みを作り上げたのである。リフローネは、小さな感動を覚えていた。
白い建物の群れは、海岸線に沿って半島の先の方まで延びていた。半島は先端に向かって
なだらかな上り勾配となり、小高い丘のようになっている。その頂上には、白い壁と青色の屋根の壮麗な城がそびえ立っていた。
「あそこが王城よ。ちょっと上り坂になるけど、勘弁してね」
リフローネ達の先頭に立って、マリアは歩き始めた。
ほどなくして、道の反対側から、鎧を纏った騎士と思しき4,5人の男たちがこちらへ向かって歩いてくるのが見えた。
「マリア様!」
先頭の背の高い騎士が、マリアの姿を見つけて、こちらへ声をかけてきた。
「リチャード!今戻ったわ」
マリアは溌剌とした声でそれに応える。
声をかけてきた騎士は、彫りの深い細面で、褐色の瞳をした、長身の美男子だった。立派な肩章をつけており、明らかに他の騎士より身分が高いとわかった。彼らは小走りに駆け寄って、マリアの前に立った。
「海賊と戦ったと聞きました。お怪我はありませんでしたか?」
眉目秀麗なその騎士は、心配そうにマリアにそう尋ねた。
「平気よ。ありがとう」
心配いらないとばかり、マリアは騎士に笑顔で答えた。
リフローネには、マリアがとても嬉しそうに見えた。ひょっとしたら、マリアはこの騎士に対して好意を抱いているのかもしれない。
「リーフ、紹介するね。彼はリチャード。王国の若き騎士団長なのである」
マリアのおどけた紹介を受け、騎士は自分の胸に拳をあて、リフローネに挨拶をした。
「はじめまして。騎士団長を勤めております、リチャード・ライプニッツと申します」
騎士らしい礼儀正しい自己紹介に、リフローネも自分の右手を胸にあてて応えた。
「お会いできて嬉しいです、ライプニッツ卿。私は、ハーラント王国の王女、リフローネ・レイナ・ハーラントです」
それを聞いて、リチャードは驚いた様子だった。
「では、あなたが、『フレスデンの女神』と讃えられた、リフローネ王女なのですか?」
リチャードの言葉に、今度はリフローネが驚く番だった。
「フレスデンの・・・女神?」
「うそ、リチャード、あなたリーフのことを知っているの?」
マリアが不思議そうに彼に尋ねる。リチャードは大きくうなずき、やや興奮した面持ちで答えた。
「ええ、勿論です。ハーラント王国のフレスデンでの戦いは、遠く離れたここエルドラドにも伝わってきております。中でも、リフローネ王女のご活躍は、まるで戦場に降り立った女神のようだったと、騎士たちの間でも、たいそう噂になっておりますよ」
「へえ、すごいや。王女様は有名なんだね」
後ろの方でマルコが感心した声でつぶやいた。
「ははあ、どうりで、海賊くらいじゃ動じないわけね。『フレスデンの女神』か。格好いい二つ名じゃない?」
マリアも目を見開いている。
リフローネはというと、自分の噂がそんなふうに広まっていることに驚きと、何とも言えない気恥ずかしさを感じていた。特に、女神と並び称されることに、どことなく居心地の悪さを覚えるのである。
「だとしたら、尚更丁重に歓待しないとね。姉さんも驚くと思うわ」
マリアは後ろ手に組んで、さも楽しみだとばかりに歩きだそうとした。
「お待ちください。マリア様、少々お疲れのご様子とお見受けいたします。騎士団の馬車をご用意いたしますので、そちらで王城までお送りいたします」
リチャードが、やや厳しい顔つきをしてマリアを引き留めた。
「疲れてなんてないわ。気にしすぎよ」
「いいえ、魔導を使われたのでしょう?どうかこのリチャードめの願いをお聞き入れ下さい」
マリアはため息をついて、しょうがないというふうに彼の勧めに従うことにした。
「分かったわよ。もう、こういう時のあなたは絶対に引かないものね。じゃあ、リーフ達も一緒に乗って行きましょう」
「騎士団の輸送用の馬車ですので、簡素な造りですが、ぜひどうぞ」
二人に勧められ、リフローネ達もマリアと一緒に馬車へ乗り込んだ。




