第一章 マリア(2)
「おいらはレニ族の村で暮らしてたんだ。友達も一杯いた。だけど、仲が良かった女の子が、ある時急にいなくなっちゃって。大人たちは、きっとその子はお父さんと一緒に村を出て行ったんだろう、って言ってたけど。でも、その子はその時、しばらく病気で家から出られなかったみたいだったから、急に村から出て行っちゃうなんて、おかしい気がして。それに・・・」
マルコはそこで、一旦目を伏せた。
「その子がいなくなった日の朝、おいら、家の外でその子が泣いている声を聞いたような気がするんだ。だから、何かあったんじゃないかと思う。その後、何日か待ってみたけど、その子も、その子のお父さんも、村に戻ってはこなかった。だからおいら、その子を探しに行こうと思って、思い切って村を出たんだ。けど、村の外で悪い人間に騙されて、捕まっちゃったんだ。セルヤムまで連れてこられて、そこで王様に助けてもらったってわけ」
「そうだったの。つらい目にあって、大変だったのですね。でも、それならどうして私たちと旅をしようと?今なら、自分の故郷へ帰ることもできるのではないですか?」
その通りだ。マルコなら、ハジャド王にフレスデンでの功績の褒美として、故郷へ帰ることを望むこともできた筈だった。しかし、マルコは首を横に振った。
「いいんだ。おいらを認めて下さった王女様の役に立ちたいという気持ちは本当だし、一緒に旅をしていれば、探している女の子の手がかりも何か掴めるかもしれないからね」
マルコの言葉に、リフローネは深い感銘を受けた。彼は、とても賢く、勇気のある少年なのだと思った。
「そう思ってもらえているのなら嬉しいです。ありがとう、マルコ」
リフローネの言葉に、マルコははにかんで、にっ、と歯を見せた。
「あ、それでさっきの神様の話なんだけど、レニ族は、ずっと昔、神様と空を旅していたんだって。でもあるとき神様と一緒に地上に降りて、ご先祖様はずっと地上で暮らすことになったんだ」
マルコは、リフローネにレニ族の伝承を語って聞かせた。その神秘的な内容には、リフローネも引き込まれるものがあった。
「さっきの女神様の話を聞いて、思ったんだ。おいらたちレニ族の神様とノア様って、よく似ているなぁって」
「そうですね。ひょっとしたら、ノア様とマルコ達の神様は、同じ神様かもしれませんね」
リフローネは微笑んで彼に答えた。
「うん。きっととても優しい神様なんだよ。・・・あのね、おいら、王女様はその女神様の生まれ変わりだと思うんだ」
「え!?そんな・・・」
彼の大胆な発想に、リフローネは虚を突かれたようになった。
マルコは無邪気に笑っていた。




