表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノアの終焉  作者: 齋藤昴
第3部
57/88

第一章 マリア(1)

 春の爽やかな風を帆に受けて、リフローネ達を乗せた商船は、青い大海原を滑るように進んでいった。右手には、色鮮やかなアッサドの街並みが、段々と遠ざかり小さくなってゆくのが見えている。

「わぁ、すごい!港がもうあんなに小さくなっちゃった!」

 マルコはすっかりはしゃいで、左右の尖った耳をぴょこぴょこ動かしながら、甲板の上を行ったり来たりしている。

「少しは落ち着いたらどうだ。あまりはしゃぐと、甲板で転ぶぞ」

 ナジャが、呆れた顔でたしなめるが、マルコは「はーい」と返事をしただけで、反対側の舷側へと小走りに行ってしまった。

 そんなマルコの様子を見て、リフローネはくすりと微笑んだ。

 無理もないだろう。マルコは、船に乗るのは初めてだと言っていた。彼には、風を受けて大きく膨らんだ船の帆も、舳先の向こうに広がる水平線も、吹き寄せる潮風の匂いも、船の横を並んで飛んでいくカモメの群れも、何もかもが新鮮に見えているに違いない。

 それにリフローネも、自身の胸が高鳴るのを感じていた。まだ見ぬ異国の地・エルドラドに思いをはせ、期待に胸が膨らむのであった。

 彼女は、海に向かったまま両手を自分の胸に置き、静かに目を閉じた。

「女神ノアよ、どうか私たちをお守りください」

 リフローネが祈りを終えて目を開くと、いつの間にかマルコが隣に来ていて、まじまじと彼女の顔を見上げていた。

「あら、どうしたの、マルコ?私に何か用かしら」

「あ、ごめんなさい。その・・・リフローネ様は、今、女神様に祈っていたの?」

 邪魔をしてしまったと思ったのか、マルコは少し申し訳なさそうな表情をした。

「大丈夫よ。ええ、そう。ハーラントでは、旅の無事を願うときや、心配なとき、悩んだとき、助けがほしいときなどに、女神様に祈るの」

「へえ、そうなんだ」

 リフローネの言葉を聞いて、マルコは安心したようだった。

「あの、おいらハーラントの女神様のことを知りたいんだ。いつもリフローネ様が祈っているから。どんな神様か気になって」

 無邪気なマルコの様子を見て、リフローネは再び微笑んだ。

「ええ、もちろんいいですよ。女神ノアは、その昔、まだゲーティア大陸の中央が険しい山しかなかった頃に、天空から降りて来て、山の間を開いて湖をお作りになったと言われているの。マルコも見た、あの大きな湖のことです。女神の湖は、ハーラントの大地に豊かな恵みを与え、たくさんの命が生まれた。その後、女神様は何処へかへ去っていったと言われています。でも、今でもきっとどこかで私たちのことを見守って下さっている。だから、ハーラントの人たちは皆女神様に感謝しながら暮らしているのですよ」

「わあ、何だか神秘的だね」

 マルコは目を輝かせながら聞いていた。

「マルコには、祈る神様はいないのですか?」

「レニ族にも神様はいるよ。でも、あんまり祈ったりはしないな。その代わり、年に一度のお祭りで、たくさんのお供え物と一緒に感謝を捧げるんだ。すごく盛大に祝うんだよ。その日は村中が・・・」

 そこまで話して、マルコは急に顔を曇らせた。リフローネは彼の様子に気づいて、はっとなった。

「ごめんなさい。辛いことを思い出させてしまいましたね」

 マルコの過去については、これまで聞いたことがなかった。しかし、彼が故郷の村から離れ、セルヤムの孤児(みなしご)たちの集団にいたのは、きっと何らかの事情があるに違いなかった。

「ううん、大丈夫。王女様にも、おいらのことを話しておきたいんだ」

「いいの?」

「うん」

 再び笑顔を見せ、マルコは言った。

 彼は、とても強い心を持っている。リフローネは思った。

 セルヤムで初めて会った時にも、過酷な境遇にも関わらず気丈に振る舞っていた。今も、過去と向き合い、前を向こうとしている。

 だから、リフローネも彼の話をしっかりと受け止めようと思った。

 リフローネの真剣な眼差しを受けて、マルコは話し始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ