序章
殺風景な田舎の漁村が目に映る。
まばらに建つ粗末な家の外には、網や銛といった漁に使う道具が無造作に置かれている。だが、そこに住む人の姿はほとんど見かけない。
聞こえるのは、打ち寄せる波の音と、空高く飛んで行く鳥の鳴き声だけ。
あるいは、その景色をして牧歌的と言えなくもないかもしれない。
生憎、そのような感慨に浸るほどの感性は、持ち合わせてはいない。心の中には、常にどす黒い感情が漂い、渦を巻いている。
ここを指定したのは、人目を避けるため。ただ、それだけだ。
しばらく歩き、待ち合わせ場所に指定された一軒の廃屋に辿り着く。
傾いた戸を押し開き、中へ入るとすぐに、埃にまみれた床に一人立っている人物の姿が目に入った。
「ようやく来たか。少々待ちくたびれたよ」
低い、ややしわがれた声が響いてくる。どうやら歳のいった男のようだが、薄暗い部屋の中で頭から白いローブを被っているため、顔はよくわからない。
答える代わりに鋭く目配せをすると、男は軽く笑ったようだった。
「やれやれ、せっかちな御仁だ。・・・案ずることはない。ここに用意してある」
男は、ローブの袖から琥珀色の宝石のついた首飾りを取り出し、目の前に掲げた。宝石には、見たことのない呪い文字のような紋様が刻まれている。
「アウラ様と『禁呪』の契約を結べば、この石が輝きだす。そうなれば、神の偉大な力がお主の体に宿るのだ」
「報酬は・・・」
その言葉を聞いて、男はもう一度笑った。
「金などは望まぬ。ただ、お主は授かった力でアウラ様に『命』を捧げ続けるだけでよい。我らの究極の目的には、もっともっと『命』が必要なのだ」
男の手から首飾りを受け取ると、宝石がひとりでに輝きはじめた。
ローブの男は満足そうに笑っていた。




