第六章 意志(7)
ウラヴァスの決戦は、遺跡の崩落という形で幕が下ろされた。長年の雨水による浸食と、直前の豪雨の影響で岩盤に亀裂が生じ、崩落の連鎖を引き起こしたのだった。
この戦いの後、ウラヴァスの捜索が行われたが、天の民の生存者は確認されなかった。
帝国側の犠牲も小さくはなかった。ハルディアはマラーラータの死を確認することはできなかったが、崩落の規模からしておそらく助かるまいと判断し、討伐の成功を宣言して帝都へと帰還していった。
数日後。
ゲーティア北部の荒野で、十名ほどの集団が、照りつける太陽の下を歩いていた。
先頭では、一人の男が若者に肩を借りながらよろよろと歩いていたが、ついに力尽きたようにその肩から滑り落ち、灼熱の地面に仰向けに倒れこんだ。
他の者たちは彼の周りに駆け寄り、縋るようにその顔を覗き込んだ。
「マラーヤータ!」
肩を貸していたネロは、叫ぶように声をかけた。
マラーヤータは、懐から砂だらけの書を取り出し、ネロの手に渡した。
「これを、頼む・・・。『天の意思』を、皆に託す・・・」
預言者は、うつろな瞳で天上の太陽を見つめながら呟いた。
「・・・こうなることが、あなたの意思だったのだろうか。私は・・・これで良かったのだろうか・・・」
そこまで言い、彼は静かに息を引き取った。
取り巻いていた者たちは、崩れ落ちるように大地に手を付き、涙を流した。
ネロは、マラーヤータの顔を暫く見つめると、その場に立ち上がり天を仰いだ。
灼熱の太陽が彼を見下ろしている。
ネロは、燃える日輪を見つめ、力強く言った。
「マラーヤータ、私は信じます。天の意思は、私たちの意思。その道は、私たちの物語。あなたと、天と、私たち、そのすべてを信じています」
ルルムの書を握る手に、力がこもった。
彼らは敗れた。帝国は、勝利によってその威信を守ったのである。
だが、整然と積み上げられた既存の秩序は、小さな亀裂によって、ゆっくりと崩壊へと向かい動き出していた。もうその動きを止めることは不可能であった。
向かう先は、誰にもわからない。
すでに世界は、その形を変えつつあった。
(第二部 完)




