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ノアの終焉  作者: 齋藤昴
第2部
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第六章 意志(4)

 天然の鍾乳洞を利用して作られた古代神殿の内奥は、深部へ進むほど複雑に枝分かれをしていた。ネロたちは迷わぬよう印をつけながら、慎重にその構造を調べていった。

 その過程で、洞窟の一つが外へと続き、山の頂上へと向かう道へ繋がっていることを発見した。ネロは背中に弓矢を背負い、その道を辿って登っていった。岩の足場を注意深く登ってゆくうちに、視界が開け周囲の山々が目に入ってくる。山頂近くまで登り、切り立った崖のようになっている端の方まで慎重に近づくと、そこからは面前に迫った数万の敵軍のほぼすべてを視界に収めることができた。

 先般から降り始めた雨は勢いを増してきており、気を抜くと足を滑らせ転落してしまいそうになる。ネロは自身の身の安全と、敵の目を欺くことの両方に気をつかう必要があった。

 彼は背負った弓矢を落とさぬよう気を付けながら、岩場の隙間に身を伏せた。

 敵軍は今まさに、神殿の入口に攻めかかっているところだった。ネロの体のすぐ下から、怒号が響いてくるのが聞こえてくる。

 ネロは、必死で目を凝らしていた。夥しい数の敵軍が、あちこち入り乱れて動いていた。その中から、彼は必死に「標的」を探していた。

 夕方の、しかも激しく雨が降りしきる中で、はるか下方の数万の敵兵の中から「標的」を見つけ出すなど、普通に考えれば不可能に違いなかった。だが今のネロは、不思議と視覚が冴えわたり、豆粒のような敵兵一人ひとりの顔までも見極めることができたのだった。

 しかしそれでも探索は困難を極めた。例えるなら、砂粒を一粒一粒見比べてゆくような途方もない作業なのである。もしもこの時、帝国軍が再びあの恐ろしい魔術を使用していなかったら、ネロは最後まで自身の「標的」を見つけ出すことはできなかったであろう。

 その時、敵軍の群れの中から一筋の黒い糸のようなものが天空へ向かって立ち上るのが見えた。

 黒い糸のように見えたのは、寄り集まって伸びた瘴気の束であった。キフカスでも、炎の柱が現れる直前に、まったく同じ瘴気の塊が立ち上ったのを思い出し、彼は戦慄した。と同時に、燃えるような感情が、胸の内に広がっていくのを感じた。ネロは急いで、糸の根元の方を目で探った。

 糸の先端が雲へと達し、それまで激しく降り続いていた風雨がにわかに止んだ。そこでネロは、瘴気の根元に白いローブに身を包んだ呪術師の姿をはっきりと捉えたのである。

 ネロは岩場の上に立ち上がると、狙いを定め力いっぱい弓を引き絞った。

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