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ノアの終焉  作者: 齋藤昴
第2部
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第六章 意志(2)

 半刻の後、天の民の一部はマラーヤータと別れ、遺跡を出ていった。

 彼らは帝国軍へ投降し、奴隷に戻ることを選んだ者たちだった。

 おそらく彼らの待ち受ける運命も、過酷なものとなるに違いなかった。だがひとまず、従順でさえいれば命は助かると考えられた。彼らは、自由を捨てる道を選んだ。彼らが置かれた境遇を思えば、決して非難はできないであろう。

 残った者たちは、追撃にくるであろう帝国軍をどのように迎え撃つか軍議を重ねていた。

 キフカスで失った兵力と、遺跡を出て行った者たちを考え合わせると、今戦える者たちの数は非常に厳しいと言わざるを得なかった。また、敵の恐るべき魔術から如何に身を守るかも考えねばならないのであった。

 マラーヤータは一人、遺跡の奥で祈りを捧げていた。彼らに守護を賜らんと、天に祈っていたのである。皆は、奇跡が訪れるのを信じ、今できることをやるしかなかった。

 迎え撃つ彼らにとっておそらく最大の利点は、この遺跡を最大限に活かして戦うことであった。限られた時間で遺跡の構造を調べ上げ、ここに誘いこんで討ち取る。兵力で大きく劣る彼らにとって、唯一と言える作戦であった。

 ネロは、戦える者たちに作戦を伝え、配置の指示を出していった。彼が最も、洞窟の中をよく見ることができたのである。

 不思議な感覚だった。彼自身、決して夜目がきく方だとは思っていなかった。それが今は、暗い遺跡の中であるにも関わらず、その構造がよく見えた。

 見えるだけではない。遠くの人の足音や、石の天井から滴る水滴が落ちる音、空間を流れる空気の音などが、自分でも驚くほどよく聞こえた。

 まるで感覚が何倍も研ぎ澄まされているかのようだ。

 はたしてこれは、天が与えた奇跡なのだろうか?だとしたら、なぜ自分だけがこのような力を得たのだろう。

 考えてもわからないが、天はまだ自分たちを見捨ててはいないのだと思う。今この力を活かすことをのみ考え、ネロは動いた。 

「みんな、聞いてほしい。急いで石や倒木を集め、遺跡の入口に防塁を築くんだ。まずはここで敵の侵入を食い止める。だが、長くは持つまい。敵が防塁を突き崩しそうなところまで迫ってきたならば、遺跡の奥へ逃れ、予め各々申し合わせた場所まで行って身を潜めるのだ。よくよく道を覚えておくこと。決して明かりを灯してはならない。敵にこちらの居所を知らせぬよう、闇に紛れて攻めかかるのだ。洞窟の暗闇こそが我らの味方だ。決して同士討ちをせぬように。暗闇によく目を慣らしておくのだ」

 窮地に立たされた彼らの決意は、悲壮に満ちていた。だが、この場に残ることを選んだ者たちの顔には、一つも諦めの色は浮かんでいなかった。今や彼らが信じるものは、天の意思や預言者にとどまらず、彼ら自身にも及んでいた。運命に翻弄されることを嘆く者は、もういない。自身の境遇を恨むこともない。

 彼らは気づいたのだ。自らの命を、自らのために使うのだと決めた時、彼らはすでに、自由を得ていたということに。

 彼らの物語を、彼ら自身が紡ぐ。それこそが『天の意思』なのだ。

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