第三章 ルルム(5)
ルルムが目を覚ますと、身体中の気だるさが嘘のように消え失せていた。
彼女はベッドの上に起き上がり、周りを見回してみた。
部屋の壁や床は、朝日を受けて白く輝いていた。
静かだった。ルルムは、夜の間ずっと付き添ってくれた父の姿を探した。が、その姿は何処にも見当たらなかった。
辺りを見回し、視線が床の方へと移ったとき、砕け散った首飾りの破片が、床に影を引いて転がっているのが目に留まった。
ルルムは、散らばった破片をじっと見つめながら、夕べ何があったのかを思い出そうとした。朧気な記憶を辿り、徐々に思い出してきたところで、彼女は全てを悟った。その事実に思い至った時、不意に頭に鈍い衝撃を受けたような感覚を覚えた。そして、両の眼から涙があふれてきた。
父は、自分の命と引き換えに、私を救ったのだ。
術によって命を譲った者は、亡骸も残らない。
自分自身の愚かな行いのために、たった一人の大切な人を永遠に失ってしまったのだ。そう思うと、もう居ても立ってもいられなかった。
彼女はそのまま、家を飛び出した。朝靄の漂う村の中をふらふらと歩いて、麓へと続く道へ向かった。
彼女は泣き続けた。泣きながら歩き続けた。
胸が張り裂けんばかりに痛み、もう何も考えられなかった。
ごめんなさい、ごめんなさい、と、呻くように何度も呟きながら、たった一人でどこまでも歩き続けた。
世界は悪意に満ちていた。彼女は、ただ知らなかっただけだった。無垢な者、弱き者は、狡猾な悪魔によって無慈悲に食い殺されてしまうのだ。今や少女は、耐え難い悲痛を胸に抱えながら、残酷な現実を彷徨うしかなかった。彼女はあまりにも弱く、小さかった。運命は彼女を飲み込み、弄んだ。
彼女は歩き続けた。その先に、さらなる苦しみが待ち受けていることも知らずに。
その後のことを、ルルムはよく覚えていない。気が付くと彼女は人買いの手に落ちていて、奴隷の刻印を入れられていたのだった。




