第二章 チュニスの屈辱(2)
歴史を紐解くと、古来より投石は重要な戦術の一つとして、数多くの戦闘で多用されてきた。武器の入手や補充が容易であることや、使用において特別な訓練を必要としないことなどがその理由として挙げられる。それでいて、集団で使用した場合、その威力は侮れぬものがあった。打ち所が悪ければ、命を落とすことも珍しくはなかったのである。
加えて、戦場の地形や気象条件によっても、その効果は倍加される。
ある記録によると、この日のバルサ盆地には、北の山から強い風が吹き下ろしていたとある。その風は時とともにより一層激しくなり、やがて嵐のように猛烈に吹き荒れたのであった。
この風を真正面から受ける形になったグラシウスらにとっては、まさに悪夢としか言いようのない状況であった。吹きあがる砂煙は容赦なく眼に入り込み、視界を奪った。弓兵はまともに狙いをつけることもできず、辛うじて放つことができた矢ですら、風に押し戻され力なく地面へと突き刺さるばかりであった。ほとんど一本の矢も、敵陣へ届くことはなかったのである。
対して天の民たちの石つぶては、強風を背に恐ろしい勢いを得て、チュニスの軍へと襲い掛かった。暴風に乗って浴びせかけられた石の雨は、不気味な風切り音をたてて飛来し、チュニス兵の兜を割り、鎧を押し潰し、骨を砕いた。グラシウスの兵たちは、次々と打ち倒されていった。
グラシウスには、なすすべもなかった。目の前で起こっていることが信じられなかった。彼には神か悪魔が、戦場を支配しているとしか思えなかった。
決戦は、短時間で決着した。軍は壊走し、グラシウスは領地を追われた。
戦闘はほとんど一方的に終わったのである。
しかし、グラシウスのことを一体誰が凡将と責められるだろうか?
彼はただ、運に恵まれなかっただけだ。あるいは、相手が悪かった。それだけのことなのだ。しかしこの敗戦で、彼は後世まで汚名を残すこととなった。
その後のことは、よくわかっていない。これ以降、あらゆる歴史書に彼の名は出てこないからだ。
かくしてチュニスは、天の民たちのものとなった。




