第五章 フレスデンの戦い(3)
サールーン王率いる王国軍は、12月半ばにドニエクル河西岸へ到着し、そこに布陣した。この遠征に参加した部族は、サールーンのハジャド家を含む5つの部族の総勢3万あまりで、その他の部族からは軍資金や物資の供出を受けていた。
陣地を築くと王は自身の天幕に部族の首長達を集め、軍義を開いた。王国軍は、数の上では帝国軍を圧倒していたが、大河が行く手を阻んでおり、これを攻略する手だてを考えなくてはならなかった。
「やはり、橋の制圧が不可欠だろう」
シャドル家の首長のアフメドが、真っ先に口を開いた。サールーンも頷いてそれに同意する。
「それが最も現実的だろう。今は冬だから、泳いで河を渡るわけにもいかぬしな」
問題は、どうやってエーテル橋を奪取するかだった。対岸には帝国軍が布陣しており、橋に土嚢や荷を積み上げて防塁を築いている。また、河岸や防塁の上からは射撃兵が弩を揃えて待ち構えており、下手に橋を渡ると狙い撃ちにされる状況だった。ここで兵を大きく損耗させれば、ハーラント城への進行が難しくなる。作戦は、慎重にならざるを得なかった。
フレスデン城のヒンデルと上手く連携して橋を奪取できるとよいが、連絡手段が失われている上、敵も橋については最も警戒し、防衛も厚く構えている。これを崩すには、何か相手の意表を突く作戦が必要だった。
続けて、バクルーン家のムスタファが口を開いた。
「荷馬車に牽かせて小舟を運んできておりまする。橋を渡らずに河を越えることも、できなくはありませぬが」
「そんなもの、敵の弓兵のいい的だ。第一、舟の数が少なすぎる」
アフメドがすぐに反論する。
「ほほう、ではアフメド殿は、どのように河を渡ろうと言うおつもりですかな?まさか、考えもなしに阿呆のように橋へ突っ込むおつもりで?」
「何を、無礼だぞ!」
「よさないか。仲間内で下らぬ喧嘩をしているときではないだろう」
サールーンがすかさず両者をたしなめる。先が思いやられると、王は心中で嘆息した。
その時、リフローネが一歩前へ進み出た。
「陛下、一策お聞き戴けますか」
「よい。申してみよ」
サールーンは眉をあげ、リフローネに先を話すよう促した。他の首長たちも黙って彼女に注目する。
「その舟で、夜のうちに私たちの部隊を対岸へ渡して下さい。敵に気づかれないよう上陸し、背後から奇襲を仕掛けます」
大胆な提案に、その場の皆が目を見開いた。
「確かに、夜陰に紛れて背後を突くことができれば効果は絶大だろう。だが、対岸の敵に見つからずに上陸するのは至難の業だ。さらに、上手く奇襲をかけても、敵の大軍の只中に取り残され、潰される危険が高い。できるのか?」
サールーンはじっと彼女の顔を見つめて問うた。リフローネは視線を受け止め、しっかりと頷いた。
「勝算があるようだな。わかった、そなたを信じよう」
サールーンは口元をほころばせ、彼女の出撃を許した。
「ありがとうございます。夜が更けたら、直ちに河の下流から舟に乗り、対岸へと渡ります」
国王に深々と礼をし、リフローネはナジャとともに自身の部隊の陣へ引き上げていった。




