第五章 フレスデンの戦い(2)
ガリア湖から流れ出た水は、南の峡谷を下りゲネブの山々からの小川と合流して大河となって海へ注いでいる。この河の名を、ドニエクル河という。ドニエクルの流れは山麓の出口に扇状地を形成した。時は流れ、人の世が訪れると、そこに小さな町が生まれた。フレスデンと名付けられたこの町は、セルヤム王国からハーラント公国へ至る玄関口となっていた。すなわち、河にかけられたエーテル橋を通って、セルヤムからフレスデンに入ることができるのだった。橋の袂には旅人を見守るように城が建っており、国境の安全を守っていた。簡素な砦のような城だったが、河と橋と城の姿が、趣深く美しい景観を作り上げていた。
フレスデンの統治を任されていたのは、公爵の右腕と言われた老将ヒンデルだった。長年公爵を支え続けた功を認められ、重要なこの地の統治を任されたのである。性格は朗らかで人に好かれやすいが、公爵のためとあらば喜んで身を投げ出すような男であった。
ハーラントがカレンツァ帝国の侵攻を受けたとき、その知らせはすぐにヒンデルにも届けられた。忠誠心厚い老将はすぐに千人程の兵を集め、救援のため峡谷を上ろうと動き出した。が、それよりも早く帝国軍の一部が峡谷を下りフレスデン近くまで攻め寄せて来たため、やむなく彼は集めた兵とともにフレスデン城に戻らざるをえなくなり、そこで足止めを余儀なくされていた。
一部とはいえ敵の数は1万にも上ろうかという大軍勢だったため、ヒンデルは籠城を続けるしかなかった。セルヤムに救援を求めようにも、橋は帝国軍に占拠されてしまい、連絡を取る術も失われていた。
身動きが取れぬまま冬が到来し、夜の間に降った雪は河岸を白く覆っていった。
万事休すと思われたが、その時、突如として河向こうにセルヤムの軍勢が現れ、そのまま河を挟んで帝国軍と対峙する姿勢を見せた。ヒンデルはこの時、セルヤムにリフローネがいることは知らなかったが、本国からの使者が何らかの方法でセルヤム王国にたどり着き、援軍を引き出したに違いないと悟った。お蔭で城内の兵士たちの士気は大いに高まったが、ドニエクル河が王国軍の進軍を阻み、援軍を対岸へ留めていたため、依然として膠着状態が続いていた。
老将は、じっと辛抱を続け、反撃の好機を待っていた。




