第2話【大神京子_任意の部位を痒くする魔法】③★☆☆
「じゃあ、やって見せて」
そう言って山本がさっきまでぽりぽりと掻いていた腕を差し出してきた。
その隣で安井と大神が、「え?」とか「まじ?!」などと驚きの声をあげている。
僕は、三人の反応を注視しながら努めて平静を装いつつ山本に近づく。
「変なとこ触ったり変なことしたら、康二に言いつけるからね」
椅子に座ったままの山本が、上目遣いに睨む。
康二とは山本の彼氏の名だ。
女バスと男バスのレギュラー同士ということもあり、この学年では有名なカップルの一組だ。
「他人の彼女にどうこうするつもりはないよ。
僕は痒みを取る方法を知ってるだけ。
山本がお願いするならするし、嫌ならしない。それだけだよ」
「わかったは、とにかく早くして。
もう我慢できないの!」
僕は合意をとった上でさらに山本に近づく。
もう手を出せば山本が差し出している左腕の肘に触れることができる距離だ。
さてどうするか?
魔法の説明では、魔法をかけた場所を僕が触ることで痒みがなくなると書いてあった。
だが、ピンポイントにどこが患部なのか一目で判別がつかない。
この魔法は痒みを与えるが、蚊に刺されたときの様な腫れは生じないらしい。
なので肘のどこが痒みの中心なのか僕からは断定できないのだ。
それとどの様に触れるかも問題だ。
痒みを抑える方法を知っていると言ってみたものの、この魔法では僕が触れた瞬間に痒みがなくなる。
なのでどの様に触るかは関係ない。
だがあまりに雑でシンプルな触れ方だと彼女らが納得しないだろう。
特に【多少無理な理屈を言いくるめる魔法】を使っていない安井と大神も納得する様な方法である必要がある。
そして何より、掃除をサボった彼女ら痒み以上の羞恥を与える様な方法であることが望ましい。
僕はほんの一瞬の思考の末、両手の人差し指と親指同士をくっつけて輪を使った。
そしてその輪を、山本の肘に当てがう。
肘というより二の腕に近いその場所は、梅雨のジメジメと暑い教室とは裏腹にヒンヤリと冷えていた。
初めて触れる同級生の素肌に一瞬たじろぎそうになるもの気合いで平静を装う。
山本は一瞬ドキッとした顔をしたが、身体を硬くしながら僕の動きを見守っていた。
僕は山本の肘に当てた指の輪っかを徐々に狭めていく。と同時に、肘と二の腕の間の皮膚を中央に寄せていく。
山本の二の腕が僕の指に押されて赤く盛り上がってくる。
「んっ」
山本が小さく声を出したが気づかないふりをしてさらに締め付ける。
もうこれ以上狭められないというところまで締め付けてから、僕はそこに顔を近づけた。
山本の体がビクッと跳ねて距離を取ろうとしてきたが、腕を掴んでそれを許さない。
そのまま一気に顔を近づけ、僕は山本赤くなった二の腕にふっと息を吹きかけ、その勢いのまま両手の人差し指の付け根で患部をつねる様に挟み込む。
「あぁっ!」
今度は無視できないほどの声が山本の口から出た。
そばで見ていた安井がそれを見て僕に近寄る。
「山田くん!沙耶香に何してるのよ!」
沙耶香とはたしか山本の名前だ。
友達想いな安井が山本のことを案じて僕の胸ぐらを掴もうと飛びかかってくる。
が、その手が僕に届く前にその山本の声がした。
「大丈夫!ちょっとびっくりしただけだから!」
山本は僕に飛びかかってきそうな安井の前に立ち塞がる。
僕はその隙に三歩ほど後ずさる。
「びっくりしたって!そりゃするでしょ!
だって山田くん沙耶香の腕にキスしてたじゃん」
「されてないされてない!
息を吹きかけられただけ!」
「それもそれじゃん!
変なことしないって言ってたのに」
確かに安井の言い分はもっともだ。
目の前で友だちがクラスメイトからセクハラ紛いの事をされたのであれば怒ってあげるのがいい友達という物だろう。
だが当の本人がそれを宥める。
「確かにちょっと変だったけど!
けど山田くんは嘘ついてないよ。あれでほんとに痒みがなくなったの!」
そう。僕が行ったのは痒みを取り除くための行為。
だから一見その行為がどれだけ変であろうとも、痒みを取るという本来の目的を達したのなら正当な行為という大義名分が立つ。
「それにただ痒みが無くなるわけじゃなくて。
痒いところをピンポイントに刺激した時みたいな、あの痛気持ちいいみたいなのがキュッて押し寄せてきてやばかった」
山本はどこか興奮した様子で僕のやった事を説明する。
どうやらこの魔法で生じた痒みを消すとき、被術者には快感のような刺激が生じるらしい。
もう言いくるめの魔法がなくても問題なさそうだ。
僕はそれを見ながら机運びを再開する。
「だから言ったでしょ。痒みを取る方法を知ってるって。
それを変なことしたみたいな言われちゃ心外だよ」
僕がそういうと、安井は居心地が悪そうに俯いてモゴモゴと小さな声で呟く。
「そりゃ私も早とちりで悪かったけど、あんなの誰だって変なことしてるって思うし……」
僕はその声を無視して掃除を続ける。
教室の掃除は後少しで終わりそうだ。




