第11話【森崎千紗_破れない契約を交わす魔法(低級)】⑤
[森崎先輩、大丈夫ですか?]
声を落として尋ねながら先輩の肩を叩く。
[あ、山田くん。ちょっと待ってね、もうすぐ終わるから]
僕が近づいている事に気づいていなかった森崎先輩は、肩を叩かれてハッとした表情で僕を見上げる。
その目はどこか虚で、心許ない。
[トイレ大丈夫ですか?]
[あ、そう!すごいの。
山田くんの暗示のおかげで、かなり我慢できてる。
そのおかげでいつもより捗ったのよ]
森崎先輩は嬉しそうに笑うが、どう見てもおしっこを我慢した影響が体に出ている。
僕は、キリが悪いからもう少しやらせてとせがむ森崎先輩を、無理やり準備室へと連行した。
「正直に答えてください。
今の尿意はどれくらいですか」
「えっと……」
森崎先輩は伏し目がちになり、内股を閉じる。
ここへ来るまでの足取りもかなり怪しかった。
「普通のおしっこがしたいなぁって感じを100%とすると……」
「すると?」
「300%」
「さんびゃくぱーせんと?」
森崎先輩の回答に思わず声が大きくなる。
慌てて図書室の方を見るが、こちらに反応している人はいない。
あぶないあぶない、密室とはいえ図書室に隣接しているのでそんなに大きな声は出せない。
それに今日は先生も常駐しているので、あまり怪しい行動をとると図書準備室へ様子を見にきてしまう。
僕は落ち着きを取り戻し、森崎先輩の回答を咀嚼する。
普通におしっこをする時の尿意3倍ということは、
「それは、もう漏らしているんじゃないんですか?」
「も、漏らしてないよ」
森崎先輩はそういうといきなりスカートの裾に手を入れたかと思うと、オムツを脱いでこちらに見せてきた。
「ほ、ほら!今日は漏らしてないの、見てください」
漏らさなかったことがそんなに嬉しいのか、それともこれまでのやり取りで羞恥心がバカになってしまったのか、森崎先輩は笑顔で脱ぎたてのオムツを持って、足を通す穴に逆側から手を入れてオムツの内側を広げてみせる。
さっきまで、森崎先輩の大事なところに接していた部分を僕の顔に近づける。
確かにオムツは白いままで、吸水ポリマーも膨らんでいないようだ。
「確かに漏らしてないですね。
けど、そんな状況で平気なんですか」
「お腹はかなり苦しくて、おしっこもすぐそこまできている感じはするんですけど、暗示のおかげで漏らす気配は無いんです。
この暗示すごいです!」
森崎先輩は、限界を超えた尿意でも漏らさずにいられる事に興奮していた。
お漏らしを回避したことがそれだけ嬉しいようだ。
そんなに喜んでいるところ申し訳ないが、僕が契約の魔法を使ったのは単に森崎先輩のお漏らしを食い止めるためだけでは無い。
それ以上の羞恥を味わってもらう計画があった。
喜ぶ森崎先輩を前に後ろめたさが全く無いというと嘘になるが、後ろめたさよりも尿意300%の森崎先輩がこの後どんな姿を晒してくれるかの期待のほうが大きい。
僕は【多少無茶な理屈を言いくるめる魔法】を使う。
これで、森崎先輩は僕の言うことに従うはずだ。
「お漏らしをは回避できたのはおめでとうございます。
けど、300%の尿意のままなのは流石に健康に悪いと思うので、この辺りで一度出してはどうですか?」
僕の提案に森崎先輩が頷く。
「そうですね……勉強のキリが悪くて我慢してましたが流石にお腹が苦しいです」
森崎先輩がさする下腹部は、妊娠初期の妊婦のようにぽっかりと膨れている。
膀胱にはたっぷりおしっこが溜まっていそうだ。
「一つ確認なんですが、ここだ暗示を解いた場合、森崎先輩はトイレまで我慢出来ますか?」
僕の問いに、森崎先輩は何を聞かれているのかわからないという顔をした。
そして数秒後、質問の意図を理解すると首をブンブンと横に振る。
「む、無理です!
多分暗示のおかげで漏らさずに済んでますが、暗示が解けたら一瞬で決壊します」
我慢ができるから限界まで我慢をしていたようだが、その先のことは考えていなかったようだ。
暗示のおかげで尿道が閉じているとすれば、その暗示が解けたらどうなるかなんて分かりそうなものだが。
まぁ、そのリスクを認知していながら森崎先輩に伝えなかった僕には森崎先輩の迂闊さを指摘する権利はないが。
僕は、暗示のリスクに今気がついた風を装って頭を抱える。
「まずいですね……
せっかく暗示でお漏らしを防いだのに、その暗示を解くとお漏らししちゃう状況になるなんて」
「と、トイレについてきていただけませんか?」
森崎先輩が妙案を思いついた、という顔で聞いてくる。
「その場合、男子トイレと女子トイレのどちらに入るんですか?」
僕の指摘を受けて一瞬でしゅんとなる。
「あ、じゃあこのオムツをもう一度履けば」
「そのサイズのオムツじゃ、おそらく今の森崎先輩のおしっこを受け取れきれません。
試してみてもいいですが、受け取れきれずに漏れ出た場合の着替えはあるんですか?」
「ないです……
山田くん、どうすればいいでしょう。ちょっとお腹が限界に近づいて来ました」
森崎先輩は下腹部を抑えて苦しそうにする。
「トイレに行かずに済んで、溜まりに溜まったおしっこを受け止めきる方法なんて、思いつかないですよ……」
僕は、頭を抱えるようにして視線を部屋の隅にある掃除道具入れに向ける。
森崎先輩が僕の視線に釣られて掃除道具入れを見る。
「この場にあるものを使って対処できる方法を思いつければいいのに」
森崎先輩が、僕の言葉を聞いて固まる。
「どうしました?何か思いついたんですか?」
「え、いや、思いついたといえば思いついたんですが……でもそんなこと、出来ないし……」
森崎先輩は歯切れ悪く呟く。
僕は、森崎先輩がどんな事を思いついたのか予想がついていたが、あえて助け舟は出さずに重ねて問いかける。
「今はそんな事を言っている場合じゃないですよ。できることがあるならトライしましょう。
森崎先輩が思いついた方法を教えてください」
僕に詰め寄られ、森崎先輩は渋々と言った様子で口を開いた。
「ば、バケツにするのは」
「バケツになんですか?」
「そ、掃除用のバケツに私がおしっこをするというのはどうでしょうか?」
やけを起こしたようにそう言い放つと、森崎先輩は顔を真っ赤にして、その顔を手で覆った。
僕はそんな森崎先輩を見てニヤけるのを我慢出来ない。
まさかここまで思い通りにことが運ぶとは。
幸い、手で顔を覆った森崎先輩にこちらの顔は見えていない。
僕は、声にニヤけた雰囲気が出ないように注意しながら森崎先輩に告げた。
「あなたは天才です」




