第11話【森崎千紗_破れない契約を交わす魔法(低級)】③
契約を交わした後、森崎先輩は席について勉強を始めた。
一度勉強を始めた森崎先輩の集中力は尋常ではないので、しばらく休憩も取らないだろう。
今日は正規の手順通り、担当の先生が図書室の管理をされているので僕にする事はない。
せっかく休みの日に図書室に来たのだから勉強でもするか、とノートを開いたはいいものの、すぐに集中が切れて読書に移行した。
だが、読書にもイマイチ集中できない。
森崎先輩の様子を伺う。
今朝漏らしたばかりなので、すぐにおしっこの許可を求めてくる事はないだろう。
僕は、気分転換に売店に向かう事にして、カバンを持って図書室を出た。
高校の売店は、土曜日も部活に来る学生のために開いている。
品揃えは大した事はないが、コンビニまで出なくてもおやつや軽食が買えるのがありがたい。
図書室から売店へは少し距離がある。
中庭を突っ切れば早いのだが、その場合一度靴に履き替えて外に出なければならないのでめんどくさい。
僕は、校舎の二階の廊下を通り、中庭を迂回するルートで売店へ向かった。
時刻は10時。
各部活動が本格的に活動を開始し、グラウンドの方からは賑やかな声や人が動く音が聞こえてくる。
中庭は図書室と同じくグランドからは離れた位置にあるので、この時間でも比較的静かだ。
普段であれば人影もないような場所である。
ただ今日は、体操服姿の人影が四つ、中庭の記念樹の下に集まっているのが見えた。
土曜日の中庭に人がいるのは珍しいので、なんとなく視線をそちらに向けながら廊下をあるく。
歩いているうちに、人影の一つが知り合いである事に気がつく。
大神京子
四つの人影は全て半袖に長ズボンの体操服を着た女子生徒だった。
そしてそのうちの一つは、僕のクラスメイトの大神京子だった。
大神とはクラスメイトであるが、先々週まで話したこともなかった。
先週の掃除当番で一緒になり、掃除をサボっていた大神に僕が【任意の部位を痒くする魔法】を使ってお仕置きをしたことで、結果的にそこそこ中の良いクラスメイトにランクアップした。
【任意の部位を痒くする魔法】は文字通り対象の任意の部位を痒くすることができる魔法だ。
それだけ聞くと叡智さを感じないが、この魔法で痒くした部位は尋常ではない痒みをもたらす上に、どれだけ掻きむしっても痒みが軽減されることがなく、術者本人が触った時のみ強烈な快感と共に痒みが治るという性質を持っている。
僕はこの魔法を使っては、大神の体の至る所を痒くしてはその痒みを取り除く名目で体を触りまくった。
なので、そこそこ仲のいいクラスメイト程度の関係でありながら、僕は大神の身体に関してはかなり詳しい。
大神の太ももの触り心地も、二の腕の柔らかさも、身につけている下着に至るまで、他のクラスメイトの男子が知らないようなことも知っている。
今も二階から大神の姿を見ながら、その服の下の身体を想像していた。
大神以外の三人は見たことがない生徒だ。
大神は確かサッカー部のマネージャーをしている。
土曜日の朝に体操服姿で大神と連れ立って歩いているという事は、十中八九同じマネージャーだろう。
マネージャーの仕事をしているのかな?とも思ったが少々様子がおかしい。
大神の周りを、ほかの三人のマネージャーが取り囲むようにして立っている。
遠目にはカツアゲかイジメにしか見えない。
そしてその見立ては間違っていなかったようだ。
三人のうちの一人が大神の肩を掴んで記念樹に押し付ける。
大神は抵抗しているようだが、他の二人に抑えられる。大神は女の子にしては身長が高く体格では優っているが、三対一では流石に勝負にならない。
その異様な光景に、僕は思わず身体を隠す。
三人は、何やら大神に大声を浴びせている。
「大人しくしていろ」「目障りだ」「色目を使ってるんじゃない」
とか、そんな感じの言葉が出ている。
距離があるので全ては聞き取れないが、どうやら大神を取り囲む三人は三年生の先輩マネージャーで大神になんらかの因縁をつけているようだ。
もちろん上級生から下級生への正当な指導が少々行き過ぎてしまっただけという可能性もあるが
「ヤリマン」「そんな奴に圭吾君は相応しくない」「なんであんたみたいなのが次のチーフマネなのよ。そのちっちゃい胸で監督に色仕掛けでもしたわけ?」
聞こえてくる声から察するに、そういうわけではなさそうだ。
さて、どうするか。
僕が今いるのは二階の廊下。
中庭の記念樹とは50メートルほど離れている。
僕がここから声をかければ、さすがの三年生たちもこの場は引くだろう。
だが、僕が大神のクラスメイトだと知れるとまた大神へのヘイトが高くなりそうだ。
図書室にいる先生を呼ぶこともできるが、こういう事に最も役に立たないのが教師という人種だ。
となれば、できるだけ第三者の介入なく、かつ、大神にもヘイトが向かない形で決着させたい。
幸い、売店で買い物するためにカバンを持ってきている。
カバンの中には『少し叡智な魔法の使い方』が入っている。
三年生の女子マネージャーたちは僕から背を向ける形で立っているので顔は見えないが、こういうことをする輩はどうせそんなに綺麗な顔はしていないのだろう。
これまで魔導書を使ってきた状況と異なり、僕の相棒は全く持って反応していない。
あまり唆られないが、知り合いが困っているのを見過ごす事はできないので仕方がない。
僕は魔導書を開いで、三人の背中に狙いをつけた。




