第10話【山田のモーニングコーヒー】⑧
【第三の手を使う魔法】
第三の手を生じさせることができる。
第三の手は対象に触れている場合にのみ発現し、その対象のありとあらゆる部位を触ることができる。
第三の手は、術者以外には視認できない。
木曜日の夜。
僕は自室で一人頭を抱えていた。
考えていたのは今朝のパンチラのこと。
パンチラを思い出して自家発電に勤しんでいるのではない。
今朝の自分の行動を客観的に振り返ろうとしていたのだ。
今朝、いろんな女の子のスカートを捲り、パンツに日光浴をさせたのは、紛れもなく僕の意思だ。それは間違いない。
誰かに誘導されたとか、唆されたとか、そんな事は一切ない。
もちろん、標的にされた女の子には気の毒だと思う気持ちはあるが、他人への気遣いよりも自分の欲求が優先されるべきだと思っている。
思ってはいるのだが……なんだこの違和感は。
鷲宮先輩の海パンを下着に変えて気絶した時から、何かが変だ。
考えがうまくまとまらず、思考が安定しない。
僕は僕なのに僕じゃないような感覚が常にある。
けれど、具体的に違和感を感じているのか、その正体をはっきり掴むことができない。
結局その夜は一睡もできず、翌日の金曜日は学校を休み一日中ベットの中にいた。
ベットの中でうとうとしているうちにあっという間に夜になった。
昨日の夜はあんなに悩んでいたはずなのに、昼寝から目覚めると悩みは消えていた。それどころか、何について悩んでいたのかもかろうじて思い出せるような状況だった。
悩みは消えた代わりに、食欲と性欲が強まっていた。
性欲の方は、昨日の朝に魔法を使って大量のパンチラを引き起こしてようやく治った類のもので、僕の右手に相手をしてもらうのでは全く治らないであろうことが容易に分かる。
取り急ぎ食欲の方をどうにかしようと、家にあったインスタント食品を食べる。
空腹は治ったが、今度は甘いものが食べたくなった。
あいにく家にはお菓子やスイーツの類は常備されていないので、僕は仕方がなく夜のコンビニに出かけた。
その帰り道だ。
鍵を無くした上野さんに出会ったのは。
上野さんとは、僕と同じマンションに住むOLで、先週の日曜日に階段から転げ落ちるところを僕が助けたことで知り合った。
上野さんがウチを訪れ、僕が彼女をマッサージした話は昨夜のことなので振り返ることもない。
唯一あげるとするなら、初めて【第三の手を使う魔法】を使ったということくらいか。
この魔法は、対象に触れているときだけ、その対象の任意の身体部位(内臓などを含む)に触れることができる第三の手を発現させる魔法だ。
この魔法で、凝り固まった上野さんの肩や腰の筋肉を"直に"触れてからをほぐしたり、耳のマッサージに合わせて第三の手で乳首をいじってみたり、手のマッサージに合わせて女性器もマッサージしてみたり。
僕は女性経験がないのでそういったテクニックは持ち合わせていないのだが、お風呂上がりにお酒も入れていて敏感になっていたのか、上野さんは女性経験がない僕から見ても分かるくらいに感じていた。
上野さんは違和感に気が付きながらも、僕に悟られないように必死に耐えていた。
上野さんにとってみれば、目に見えない第三の手で体をいじられているとは考えられらはずもなく、僕のマッサージにつられて体の至る所が反応していると思ったに違いない。
8つも年下の僕のマッサージで発情したなんて言えるわけもないので、上野さんは体に感じる違和感を口に出す事はなかった。
あんなに腰を浮かせたり、盛大に絶頂に達しているので、隠し通せるわけもないのに。
上野さんは、筋肉へのマッサージも乳首へのマッサージもどちらも気持ちよさそうにしていた。
またマッサージする約束も取り付けた事だし、今後が非常に楽しみだ。
僕は空になったコーヒーカップをおく。
この一週間、なんとも言えない違和感がずっとまとわりついていて気分が晴れなかった。
改めて振り返ってみれば、その時には気が付きなかったことに気がつくのではないかと思い、こうしてコーヒー2杯分しっかりと考えてみたのだが……。
何も変な事はなかった。
『少し叡智な魔法の使い方』を使って、ちょっとエッチなことをしながら過ごしたなんでもない一週間だった。
今となっては、自分が何に思い悩んでいたのか、それすらもはっきりと思い出せない。
僕はふっとひとつ息をついてから、コーヒーカップを洗う。
まったく、無駄な時間を過ごしてしまった。
時刻は8時半を少し回ったあたり。
そうのんびりはしていられない。
今日は土曜日だ。
スマホのマッサージアプリには、森崎先輩からのメッセージが入っている。
[今週もトレーニングに付き合って頂けませんか?]
メッセージの後に、最近小学生の間で流行っているという猫のキャラクターが頭を下げているスタンプが続く。
そのキャラクターは、どことなく小動物感のある森崎先輩に少し似ている気がした。
僕と森崎先輩との間でトレーニングという言葉が指すものは一つだけだ。
先週あんなにお尻を叩かれたというのに、森崎先輩からトレーニングのお願いをしてきた。
言いくるめの魔法も使っていないのに、だ。
森崎先輩がこれほど乗り気なのであれば、多少レベルの高いことをしても大丈夫かもしれない。
僕は、この後のトレーニングのことを想像して股間が熱くなるのを感じた。
第10話 完
10話は、混乱している人間の一人称視点というコンセプトだったのですが、私の力量が足りず四苦八苦しておりました。
読みにくい箇所があると思いますが、山田の精神状態を体験できると思って割り切っていただけると幸いです。
注目度ランキングの効果も薄れ、新たに入ってきてくださる方の数も落ち着いてきました。
ここからは、残っていただいた方に続きが見たいと思っていただけるようなストーリー展開を目指していきます。
第11話は、森崎先輩回になります。
ぜひお楽しみに。




